・・・器械的な自然界の現象のうち、尤も単調な重複を厭わざるものには、すぐこの型を応用して実生活の便宜を計る事が出来るかも知れない。科学者の研究が未来に反射するというのはこのためである。しかし人間精神上の生活において、吾人がもし一イズムに支配されん・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・からざる文芸上の批判を国家的に膨脹して、自己の勢力を張るの具となすならば、政府はまた文芸委員を文芸に関する最終の審判者の如く見立てて、この機関を通して、尤も不愉快なる方法によって、健全なる文芸の発達を計るとの漠然たる美名の下に、行政上に都合・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・だが、無頼漢共を量る時には、一年の概念的な数字に過ぎなかった。その一年の間に、人間の生活が含まれていると云う事は考えられなかった。それは自分には関係のない一年であった。その一年の間に、他人の生活の何千年かを蛹にしてしまう職業に携っている、そ・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・るが故に、即ち其ありのまゝに任せ、之を家の長老尊属として丁寧に事うるは固より当然なれども、実父母同様に親愛の情ある可らざるは是亦当然のことゝして、初めより相互に余計の事を求めず、自然の成行に従て円滑を謀るこそ一家の幸福なれ。世間には男女結婚・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・而してその智力は権衡もって量るべきものに非ざれば、その増減を察すること、はなはだ難し。家厳が力をつくして育し得たる令息は、篤実一偏、ただ命これしたがう、この子は未だ鳥目の勘定だも知らずなどと、陽に憂てその実は得意話の最中に、若旦那のお払いと・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・蕉門も檀林も其嵐派も支麦派も用いるに難んじたる極端の俗語を取って平気に俳句中に入したる蕪村の技倆は実に測るべからざるものあり。しかもその俗語の俗ならずしてかえって活動する、腐草螢と化し淤泥蓮を生ずるの趣あるを見ては誰かその奇術に驚かざらん。・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・主の恵み讃うべく主のみこころは測るべからざる哉。われらこの美しき世界の中にパンを食み羊毛と麻と木綿とを着、セルリイと蕪菁とを食み又豚と鮭とをたべる。すべてこれ摂理である。み恵みである。善である。どうです諸君。ご異議がありますか。」 博士・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・女なら女のことを解決するかもしれない、というぼんやりした婦人たちの期待は、時期尚早のうちに強行された選挙準備のうちに、決して、慎重に政党の真意を計るところまで高められようもなかった。連記制は、この未熟さに拍車をかけて、三名選挙するのなら、そ・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・しかしもし商人が資本をおろし財利を謀るように、お佐代さんが労苦と忍耐とを夫に提供して、まだ報酬を得ぬうちに亡くなったのだと言うなら、わたくしは不敏にしてそれに同意することが出来ない。 お佐代さんは必ずや未来に何物をか望んでいただろう。そ・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・暗中匕首を探ぐってぐっと横腹を突くように、栖方は腰のズボンの時計を素早く計る手つきを示して梶に云った。「しかし、それなら発表するでしょう。」「そりゃ、しませんよ。すぐ敵に分ってしまう。」「それにしても――」 二人はまた黙って・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫