・・・「ここの村長は――今は替わりましたけれど、先の人がいろいろこの村のために計画して、広い道路をいたるところに作ったり、堤防を築いたり、土地を売って村を富ましたりしたものです。で、計画はなかなか大仕掛けなのです。叔父さんもひと夏子供さんをお・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・二六新報の計画した娼妓自由廃業の運動はこの時既に世人の話柄となっていたが、遊里の風俗はなお依然として変る所のなかった事は、『註文帳』の中に現れ来る人物や事件によっても窺い知ることが出来る。『註文帳』は廓外の寮に住んでいる娼家の娘が剃刀の・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・立籠って見て始めてわが計画の非なる事を悟った。夏は暑くておりにくく、冬は寒くておりにくい。案内者は朗読的にここまで述べて余を顧りみた。真丸な顔の底に笑の影が見える。余は無言のままうなずく。 カーライルは何のためにこの天に近き一室の経営に・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・どいつから先に蹴っ飛ばすか、うまく立ち廻らんと、この勝負は俺の負けになるぞ、作戦計画を立ってからやれ、いいか民平!――私は据えられたように立って考えていた。「オイ、若えの、お前は若え者がするだけの楽しみを、二分で買う気はねえかい」 ・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・オオビュルナンは女に逢うに、どうしようと云う計画を立てたことが無い。今の世の人情で判断すれば、この男はまだ若いと云っていい。しかしもうあまたの閲歴、しかも猛烈な閲歴を持っているから、小説らしい架空な妄想には耽らない。この男はきちんと日課に割・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・六班がみんな思い思いの計画で別々のコースをとって調査にかかった。僕は郡で調べたのをちゃんと写して予察図にして持っていたからほかの班のようにまごつかなかった。けれどもなかなかわからない。郡のも十万分一だしほんの大体しか調ばっ(ていない。猿ヶ石・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・例えば技術詮衡部衛生部その他重要な生産計画部、文化部などがあって、どんな大工場の管理者でもこの工場委員会の決定に従って行動しなければならないようになっている。ブルジョア・地主の工場のように、社長、重役とか主任とか監督とか、威張って搾るばかり・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・大勢の客を留める計画をして建てた家と見える。廊下には暗い電燈が附いている。女中が平山に、「あなたはこちらで」と一つの戸を指さした。 戸の撮みに手を掛けて、「さようなら」と云った平山の声が小川にはひどく不愛相に聞えた。 女中はずんずん・・・ 森鴎外 「鼠坂」
どこかで計画しているだろうと思うようなこと、想像で計り知られるようなこと、実際これはこうなる、あれはああなると思うような何んでもない、簡単なことが渦巻き返して来ると、ルーレットの盤の停止点を見詰めるように、停るまでは動きが・・・ 横光利一 「鵜飼」
・・・五十八歳の秀吉が征明の計画で手を焼いているのを静かにながめながら、家康は、馬上をもって天下を治め得ざるゆえんを考えていたのである。だから五年後に家康が政権を握ったときには、彼は、秀吉が征明の役を起こした時と同じ年齢であったが、秀吉とは全然逆・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫