・・・なんとかいう記者は、君の大きな体格を見て、その予想外なのに驚いたというからね」 「そうですかナ」と、杉田はしかたなしに笑う。 「少女万歳ですな!」 と編集員の一人が相槌を打って冷やかした。 杉田はむっとしたが、くだらん奴・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・一昨年来急に世界的に有名になってから新聞雑誌記者は勿論、画家彫刻家までが彼の門に押しよせて、肖像を描かせろ胸像を作らしてくれとせがむ。講義をすまして廊下へ出ると学生が押しかけて質問をする。宅へ帰ると世界中の学者や素人から色々の質問や註文の手・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・無論記事の全責任は記者すなわち著者にあることが特に断ってある。 一体人の談話を聞いて正当にこれを伝えるという事は、それが精密な科学上の定理や方則でない限り、厳密に云えばほとんど不可能なほど困難な事である。たとえ言葉だけは精密に書き留めて・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ わたくしは或雑誌の記者から、わたくしの少年時代の事を問われたことがあったので、後にその事を思出してこの記を書いて見たのである。しかし過去を語るのは、覚めた後前夜の夢を尋ねて、これを人に向って説くのと同じである。 鴎外先生が『私が十・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
一月二十七日の読売新聞で日高未徹君は、余の国民記者に話した、コンラッドの小説は自然に重きをおき過ぎるの結果主客顛倒の傾があると云う所見を非難せられた。 日高君の説によると、コンラッドは背景として自然を用いたのではない、・・・ 夏目漱石 「コンラッドの描きたる自然について」
・・・蓋し女大学の記者は有名なる大先生なれども、一切万事支那流より割出して立論するが故に、男尊女卑の癖は免かる可らず。実際の真面目を言えば、常に能く夜を守らずして内を外にし、動もすれば人を叱倒し人を虐待するが如き悪風は男子の方にこそ多けれども、其・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・つまり徒歩旅行は必要と面白味とを兼ね備えたもので、新聞記者の紀行としては理想の極点に達したというても善い位であると思う。 去年この紀行が『二六新報』に出た時は炎天の候であって、余は病牀にあって病気と暑さとの夾み撃ちに遇うてただ煩悶を極め・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・その間へ、銃をとって絶対に戦わなければならないでもない作家、一面には社と社との激烈な競争によって刺戟され、一面には報道陣の戦死としての矜りから死を突破しようとさえする従軍記者でもない作家、謂わば、命を一つめぐってそれをすてるか守るかしようと・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・実は反対に記者のために頗る気の毒な、失敬な事を考えた。情調のある作品として挙げてある例を見て、一層失敬な事を考えた。 木村の蹙めた顔はすぐに晴々としてしまった。そして一人者のなんでも整頓する癖で、新聞を丁寧に畳んで、居間の縁側の隅に出し・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・そして、終りに精神科の医者の記者に云うには、「まア、こんな患者は、今は珍らしいことではありません。人間が十人集れば、一人ぐらいは、狂人が混じっていると思っても、宜しいでしょう。」「そうすると、今の日本には、少しおかしいのが、五百万人・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫