・・・のである。現代では競技会でメダルやカップやレコードを仕留めるだけが目的の空中曲技も、昔の武士は生命のやりとり空中組み打ちの予行練習として行なったものと見える。 ポアンカレ著「科学者と詩人」の訳本を見ていたら、「学者は普通に、徐々にしか真・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ゲーテのライネケフックスの訳本を読んで聞かせてくれたり、十歳未満の自分にミルの経済論、ルソーの民約論を教授してくれるという予告だけでもしてくれた楠さんは、たしかにその時代の新人であり、少なくも自分にとっては、来るべき「約束の国」の先触れをす・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・一、翻訳書を読むものは、まず仮名附の訳書を先にし、追々漢文の訳本を読むべし。字を知るのみならず、事柄もわかり、原書を読むの助けとなりて、大いに便利なり。国内一般に文化を及ぼすは、訳書にあらざればかなわぬことなり。原書のみにて人を導かんと・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・中にも西洋の誰やらの脚本をある劇場で興行するのに、木村の訳本を使った時にこのお極りの悪口が書いてあった。それがどんな脚本かと云うと、censure の可笑しい程厳しいウィインやベルリンで、書籍としての発行を許しているばかりではない、舞台での・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・わたくしはこの物語の訳本を切に要求いたしております。 日本支那の古い文献やら、擬古文で書いた近世人の著述やらが、この頃沢山に翻訳せられます。どれもどれも時代が要求しているのかも知れませんが、わたくしのほしいと思う本は、その中に余り多くな・・・ 森鴎外 「『新訳源氏物語』初版の序」
・・・三 ファウストの訳本は最初高橋五郎君のが出た。次いで私のを印刷しているうちに、町井正路君のが出た。どちらも第一部だけである。私は自分が訳してしまうまで、他人の訳本を読まずにいた。第一部も第二部も訳してしまってから、両君の第一・・・ 森鴎外 「不苦心談」
私が訳したファウストについては、私はあの訳本をして自ら語らしめる積でいる。それで現にあの印行本にも余計な事は一切書き添えなかった。開巻第一の所謂扉一枚の次に文芸委員会の文句が挿んであるが、あれも委員会からの注意を受けて、ようよう入れた・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫