・・・ 彼女の頭の中は夕方近くに来る某博士の診断の想像、立て閉めた西洋間の中の様子、手伝に来て居る者にお菓子をやり医者の車夫に心づけを仕なければ成らない事、五時までに食事を出さなければならない事、………… まるで蜂の巣の様に細かく分けられ・・・ 宮本百合子 「二月七日」
・・・ おそい朝飯をすましてすぐ家を出かけ、この研究所に勤めている友達に、重吉の健康診断をしてもらいに来た。重吉とひろ子は、鮭のカンヅメとパンとをもって来た。友人の吉岡がおいもをあてがっておいて、室を出て行った。妻子を疎開させたから、研究所に・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・腎臓に結石のあることを診断した医師達も、そう急変が起りそうな条件は見出していなかった。六十九歳まで生きた父がもう生き続けていられなくなった生命の不調和は、亡くなる日の午後まで元気とユーモアに充ちていた丸々した体内に震撼的に現れたのであった。・・・ 宮本百合子 「わが父」
・・・「そうですね。診断は僕もお上さんに同意します。両側下顎脱臼です。昨夜脱臼したのなら、直ぐに整復が出来る見込です」「遣って御覧」 花房は佐藤にガアゼを持って来させて、両手の拇指を厚く巻いて、それを口に挿し入れて、下顎を左右二箇所で・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・お医者さんの診断書貰うて、役場へ死亡届出さにゃ叱られるわして。」とお留は云った。「そんなら、もういっぺん打ちやけるか?」 秋三はお霜を眺めてそう訊くと、お霜は安次の着ていた蒲団を摘まみ上げて眺めた。「そんな汚い物、焼いて了え。」・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫