・・・二十八年の長きにわたって当初の立案通りの過程を追って脚色の上に少しも矛盾撞着を生ぜしめなかったのは稀に見る例で、作者の頭脳の明澄透徹を証拠立てる。殊に視力を失って単なる記憶に頼るほかなくなってからでも毫も混錯しないで、一々個々の筋道を分けて・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・この事実もまたジャーナリズムのその日その日主義を証拠立てる資料となるであろう。学者の仕事は決して一日に成るものでなく、それを発表した日で消失するものでもないのであるが、新聞ニュースとしては一日過ぎれば価値はなくなる。しかも記者が始めて聞き込・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・ さて、その言葉を証拠立てる積りでもあったのか、脂肪肥りのクルベルは、床に膝をついてユロ夫人の手に接吻した。 この活々と緊張して、而も落付き、社会の裏面を露く惨酷さでは骨髄を抉っている描写は、消えぬ絵となって我々の印象に焼きつけ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・君が服せぬと、私は旅中にも持っている Reclam 版の Goethe などを出して証拠立てる。こんな応対がなかなか面白いので、私も君の来るのを待つようになった。 天気の好い土曜、日曜などには、私はF君を連れて散歩をした。狭い小倉の町は・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫