・・・何故と云えば、斉広の持っている煙管は真鍮だと云う事が、宗俊と了哲とによって、一同に証明されたからである。 そこで、一時、真鍮の煙管を金と偽って、斉広を欺いた三人の忠臣は、評議の末再び、住吉屋七兵衛に命じて、金無垢の煙管を調製させた。前に・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・しかし薄蒼いパイプの煙は粟野さんの存在を証明するように、白壁を背にした空間の中へ時々かすかに立ち昇っている。窓の外の風景もやはり静かさには変りはない。曇天にこぞった若葉の梢、その向うに続いた鼠色の校舎、そのまた向うに薄光った入江、――何もか・・・ 芥川竜之介 「十円札」
・・・氏は明らかに私のいう第二か第三かの芸術家的素質のうちのいずれかに属することをみずから証明していられるのだ。しかもその所説は、私の見る所が誤っていないなら、第一の種類に属する芸術家でも主張しそうなことを主張していられる。もし第一の種類に属する・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・朗快な太陽の光は、まともに庭の草花を照らし、花の紅紫も枝葉の緑も物の煩いということをいっさい知らぬさまで世界はけっして地獄でないことを現実に証明している。予はしばらく子どもらをそっちのけにしていたことに気づいた。「お父さんすぐ九十九里へ・・・ 伊藤左千夫 「紅黄録」
・・・という自祝の狂歌は縁組の径路を証明しておる。媒合わされた娘は先代の笑名と神楽坂路考のおらいとの間に生れた総領のおくみであって、二番目の娘は分家させて質屋を営ませ、その養子婿に淡島屋嘉兵衛と名乗らした。本家は風流に隠れてしまったが、分家は今で・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ 早稲田における坪内君の功蹟は、左も右くも文壇に早稲田派なるものがあって、相応に文学に貢献もすれば勢力も持ってる一事が明白に証明しておる。これ以上一語を加うる必要がない。早稲田大学は本と高田、天野、坪内のトライアンビレートを以て成立した・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・それは即ち作者が作品を書くに当って何等一点の世俗的観念が入っていないと云うことを証明している。 現時文壇の批評のあるもの、作品のあるものは、作者が筆を執っている時に果して自己を偽っていないか、世俗的観念が入っていないか疑わざるを得ない。・・・ 小川未明 「動く絵と新しき夢幻」
・・・知識というものは、時に虚偽を本とする社会をいかに美しく見せるかという場合に必要であろうけれど人間の良心は、知識によって証明もされなければ、また負うところもないのである。そして、純情のみが、私達の求める希望の社会を造るのであります。 知識・・・ 小川未明 「草木の暗示から」
・・・ちゃんと実例が証明してるやないか」 そして私の方に向って、「なあ、そうでっしゃろ。違いまっか。どない思いはります?」 気がつくと、前歯が一枚抜けているせいか、早口になると彼の言葉はひどく湿り気を帯びた。「…………」 私は・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・つまりそれだけ大阪弁は書きにくいということになるわけだが、同時にそれは大阪弁の変化の多さや、奥行きの深さ、間口の広さを証明していることになるのだろうと私は思っている。 たとえば、谷崎潤一郎氏の書く大阪弁、宇野浩二氏の書く大阪弁、上司小剣・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
出典:青空文庫