・・・窃盗をする。詐偽をする。強盗もする。そのくせなかなかよい奴であった。女房にはひどく可哀がられていた。女房はもとけちな女中奉公をしていたもので十七になるまでは貧乏な人達を主人にして勤めたのだ。 ある日曜日に暇を貰って出て歩くついでに、女房・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・人の噂にはいろいろの詐偽もまじわるものじゃ。軽々しく信ければ後に悔ゆることもあろうぞ」 言いきって母は返辞を待皃に忍藻の顔を見つめるので忍藻も仕方なさそうに、挨拶したが、それもわずかに一言だ。「さもそうず」 母もおぼつかない挨拶・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫