・・・そして其の極は詰り人間の生活の極だとでも申しましょうか、哲人の価値は神の光栄でございます。痴人は人類の悲歎でございます。其故、私は真に徹した生活をして居る者の価値は、日常生活の風習の差異等を眼中に置かない共鳴を持つと信じて居ります。然し、私・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 上げたときと同じにしておこうと思っても、きっと幾度かは殆ど不可抗力に近い重みをもって垂れそうになって来る通りに、彼女のちっとも緩みのない心、休息を与えられることのない心は、ときどき息が詰りそうな陰鬱を伴って沈んで来る。 何の音もし・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・方法が見出し難いと云うのは、寧ろ自己弁護であるようにさえ思われました。詰り、良人に対する真心の愛は案外薄弱なもので結局第三の良人に赴こうとする前提として、一種の概念から発した口実ではあるまいかと思わずにはいられなかったのです。 私は、謹・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・せっかくお別れをいたす日になって、宅にでも見附けられると、詰まりませんからね。 男。いかさま。そんならこれで。 女。なぜいらっしゃらないの。 男。実はお別れをする前に少し伺っておきたい事があるものですから。 女。そう。さ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・とどの詰りはそれより無く、もし有ったところで、それは物があるということだけかも知れぬ。人人の認識というものはただ見たことだけだ。雑念はすべて誤りという不可思議な中で、しきりに人は思わねばならぬ。思いを殺し、腰蓑の鋭さに水滴を弾いて、夢、まぼ・・・ 横光利一 「鵜飼」
出典:青空文庫