十月のある午後、僕等三人は話し合いながら、松の中の小みちを歩いていた。小みちにはどこにも人かげはなかった。ただ時々松の梢に鵯の声のするだけだった。「ゴオグの死骸を載せた玉突台だね、あの上では今でも玉を突いているがね。…・・・ 芥川竜之介 「悠々荘」
・・・一念深く省作を思うの情は増すことはあるとも減ることはない。話し合いで別れて、得心して妻を持たせながら、なおその男を思っているのは理屈に合わない。いくら理屈に合わなくとも、そういかないのが人間のあたりまえである。おとよ自身も、もう思うまいもう・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・と、おじいさんは感嘆して、おばあさんと話し合いました。「絵を描いたろうそくをおくれ。」といって、朝から晩まで、子供や、大人がこの店頭へ買いにきました。はたして、絵を描いたろうそくは、みんなに受けたのであります。 すると、ここに不思議・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・それにしても、あの氷といっしょに流されてどこかへいってしまった三人を、どうしたらいいものだろうと話し合いました。「いまさらどうしようもない。この冬の海に船を出されるものでなし、後を追うこともできないではないか。」と、あるものは、絶望しな・・・ 小川未明 「黒い人と赤いそり」
・・・と、彼らはたがいに話し合いました。「こりゃ、おれたちが、あの星に注意してやらなけりゃならない。」「そうだ。それがおれたちのすべきことだ。」と、彼らは、またいいあいました。相談がすむと、彼らはたがいに別れてしまいました。 どんな晩・・・ 小川未明 「めくら星」
・・・ 二人は斯んなことを話し合いながら、しばらく肩を並べてぶら/\歩いた。で彼は「此際いい味方が出来たものだ」斯う心の中に思いながら、彼が目下家を追い立てられているということ、今晩中に引越さないと三百が乱暴なことをするだろうが、どうかならぬ・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・中隊長は、前哨に送った部下の偵察隊が、××の歩哨と、馴れ/\しく話し合い、飯盒で焚いた飯を分け、相手から、粟の饅頭を貰い、全く、仲間となってしまっているのを発見して、真紅になった。「何をしているか!」 中隊長は、いきなり一喝した。・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・ 暫らくたつと、三人の洋服を着た執達吏が何か話し合いながら、村へ這入って来た。彼等は豚小屋に封印をつけて、豚を柵から出して、百姓が勝手に売買することを許さなくするためにやって来たのである。 百姓達は、それに対して若者が知らして帰ると・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・肉屋は、一たいああして肉をくわえてどこへもっていくのだろう、一日中おれのところにおりながら、どうして夜はきまって、ほかのところで寝るのだろうと、店のものたちと話し合いました。「おいおい、きょうもまた食わないでもってったよ。一つあとをつけ・・・ 鈴木三重吉 「やどなし犬」
・・・私は冬季休暇で、生家に帰り、嫂と、つい先日の御誕生のことを話し合い、どういうものだか涙が出て困ったという述懐に於て一致した。あの時、私は床屋にいて散髪の最中であったのだが、知らせの花火の音を聞いているうちに我慢出来なくなり、非常に困ったので・・・ 太宰治 「一燈」
出典:青空文庫