・・・――宮本武蔵伝読後。 ユウゴオ 全フランスを蔽う一片のパン。しかもバタはどう考えても、余りたっぷりはついていない。 ドストエフスキイ ドストエフスキイの小説はあらゆる戯画に充ち満ちている。尤もその又戯・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ 聖書を読むまでと、読後とでは、人間の霊的道徳性はたしかに水準を異にする。プラトンとダンテとを読むと読まないとではその人の理念の世界の登攀の標高がきっと非常に相違するであろう。 高さと美とは一目見たことが致命的である。より高く、美し・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・私、ただいま、年に二つ、三つ、それも雑誌社のお許しを得て、一篇、十分くらいの時間があれば、たいてい読み切れるような、そうして、読後十分くらいで、きれいさっぱり忘れられてしまうような、たいへんあっさりした短篇小説、二つ、三つ、書かせていただき・・・ 太宰治 「喝采」
・・・それなのに、活字の大小の使い分けや、文章の巧妙なる陰影の魔力によって読者読後の感じは、どうにも、書いてある事実とはちがったものになるのである。実に驚くべき芸術である。こういうのがいわゆるジャーナリズムの真髄とでもいうのであろう。 ついこ・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・ これらの読後の感想についてはしるしたい事がいろいろあるが、この稿とは融合しない性質のものだから、それは別の機会に譲る事にした。 寺田寅彦 「笑い」
・・・大変ひろく読まれながら、その読後の感想というものが読者の側からはっきりと反映して来ないまま、読者は作家と馴れあって一種の流行の空気を作者のためにかもし出す作用を行っている作品である。「結婚の生態」が、まともな文学作品としてとりあげら・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・はいるし、それが矛盾に於て把握されているが、そうした矛盾した複雑性も、作者の余りにも構えた分析解明の跡が見えすぎ、如実に操られている各性格が息のかよわぬ人形であることがいよいよ哀しく読者に印象される。読後、私は妙なことを感じた。というのは、・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
『中央公論』の新年号に、アンドレ・ジイドのソヴェト旅行記がのっている。未完結のものであるが、あの一文に注目をひかれ、読後、様々の感想を覚えた読者は恐らく私一人にとどまらなかったであろうと思う。 間もなく、去る一月六日から・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・のことはやってのけてしまったような感がある」そして同志から惜しまれるのも「作家としてよりは寧ろオルグとしてではなかったであろうか」と云っている。三月号『改造』にのった同志小林の小説「地区の人々」の読後、杉山氏はその作品を「下降的」なものと感・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・風雲児的な近藤、土方が戦いを一身の英雄心・栄達心と結びつけて行動したことから大局を破局に導いたところ、また甲陽鎮撫隊の構成の様々な心理的要素などに作者は軽く筆を突きすすめてはいるが、読後の印象は一種の読物の域を脱しない作品である。新講談の作・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫