・・・わたしが調整してるんですよ」「――そいつア、また。……ものによっては、一服寄進にあずかってもよいが、いったい何に効くんだい?」「――肺病です。……あきれたでしょうがな」「――あきれた」 かつて灸婆をつかって病人相手の商売に味・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・思い切って靴を脱ぎ、片手にぶら下げて、地下道の旅行調整所の前にうずくまって夜明しをしている旅行者の群へ寄って行き、靴はいらんか百円々々と呶鳴ると、これも廉いのかすぐ売れた、十円札にくずして貰い、飾窓へ戻り二晩分十円先払いして、硝子の中で寝た・・・ 織田作之助 「世相」
・・・と、この場合あまり適切とは思えない叱咤の言を叫び威厳を取りつくろう為に、着物の裾の乱れを調整し、「僕は、君を救助しに来たんだ。」 少年は上半身を起し、まつげの長い、うるんだ眼を、ずるそうに細めて私を見上げ、「君は、ばかだね。僕がここ・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・生れた家は、ご承知のお方もございましょうが、ここから三里はなれた山麓の寒村に在りまして、昔も今も変り無く、まあ小地主で、弟は私と違って実直な男でございますから、自作などもやっていまして、このたびの農地調整とかいう法令の網の目からも、もれるく・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・けれども、何せれいの家の建て直しに、着て出る着物の調整に、やっさもっさ、心をくだき、あまりの向上心に、いきおい守るほうを失念してしまっていた。人間のアビリティの限度、いたしかたの無いものである。たしかに一方、抜けていた。まさしく破綻の形であ・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・れは、ある時代、おそらくは宝永地震後、安政地震のころへかけて、この地方の地殻に特殊な歪を生じたために、表層岩石の内部に小規模の地すべりを起こし、従って地鳴りの現象を生じていたのが、近年に至ってその歪が調整されてもはや変動を起こさなくなったの・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・左右の羽根の刺激の不平均のために、無意識に自動的に羽根の動きの不平均が起こって、結局左右が平均するまでからだを回転させ、そうして刺激を増大するような方向に進行させるという自動調整器を持参しているのであろうか。 銀座の楽器店の軒ばにつるし・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・ 政府がきめる土地調整法案で地主は必ずしもいま働いている小作人に土地をわける義務はないのだし、この調整法の本来が大地主をもっと数多い小地主にかえることでしかない。ヤグラの上で、盆祭りの赤い腰まきを木の間にちらつかせて涼んでいる農家のかあ・・・ 宮本百合子 「青田は果なし」
一 第二次ヨーロッパ大戦は、私たち現世紀の人間にさまざまの深刻な教訓をあたえた。そのもっとも根本的な点は国際間の複雑な利害矛盾の調整は、封建的で、また資本主義的な強圧であるナチズムやファシズムでは・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ 友情のそういう健全な敏感さは、日常の接触のおりおり、みだす力としてより整える力として発露して、異性の間の友情をも調整して行くものである。くだらない偶然で紛糾をひきおこすことは避けるだけの実際性にも富んでいることが生活態度としてある貴い・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
出典:青空文庫