・・・空想はかなり大きく、談論は極めて鋭どかったが、率ざ問題にブツかろうとするとカラキシ舞台度胸がなくて、存外※咀思想がイツマデも抜け切らないで、二葉亭の行くべき新らしい世界に眼を閉ざさした。二葉亭は近代思想の聡明な理解者であったが、心の底から近・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・小心な伊助は気味わるく、もう浄瑠璃どころではなかったが、おまけにその客たちは部屋や道具をよごすことを何とも思っていず、談論風発すると畳の眼をむしりとる癖の者もいた。煙草盆はひっくりかえす、茶碗が転る、銚子は割れる、興奮のあまり刀を振りまわす・・・ 織田作之助 「螢」
・・・梢を籠めているほどの夙さに起出て、そして九時か九時半かという頃までには、もう一家の生活を支えるための仕事は終えてしまって、それから後はおちついた寛やかな気分で、読書や研究に従事し、あるいは訪客に接して談論したり、午後の倦んだ時分には、そこら・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・その八畳の客間の隅に、消えるように小さく坐って、皆の談論をかしこまって聞いている男が、男爵である。頗るぱっとしない。五尺二、三寸の小柄の男で、しかも痩せている。つくづくその顔を眺めてみても、別段これという顔でない。浅黒く油光りして、顎の鬚が・・・ 太宰治 「花燭」
・・・この人民の政を捨てて政府の政にのみ心を労し、再三の失望にも懲りずして無益の談論に日を送る者は、余輩これを政談家といわずして、新奇に役談家の名を下すもまた不可なきが如く思うなり。 今の如く役談家の繁昌する時節において、国のために利害をはか・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・口頭の談論は紙上の文章の如し。等しく文を記して同一様の趣意を述ぶるにも、其文に優美高尚なるものあり、粗野過激なるものあり、直筆激論、時として有力なることなきに非ざれども、文に巧なる人が婉曲に筆を舞わして却て大に読者を感動せしめて、或る場合に・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・教義果たして美にして立国に要用なりとならば、我が日本国には耶蘇の名のほかに無名の耶蘇教民あることならんなどと、百方に言葉を尽して弁論すれば、また自ずからその意を解して釈然たる者なきにあらざれども、その談論時として男女関係の事に及び、日本の男・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・葡萄酒がすきで、その大会なんかの時も朝から一杯やって、談論風発という勢だった。クララの方はもっと常識的な女だね。老人は、自分で煮た苺のジャムを食べさせながらそのようなことをも話した。 ローザの手紙はこのほか、カウツキーの妻にやったのを纏・・・ 宮本百合子 「生活の道より」
・・・かれの弁解がいよいよ完全になるだけ、かれの談論がいよいようまくなるだけ、ますますかれは信じられなくなった。『みんな嘘言家の証拠さ』、人々はかれの背後で言い合っていた。 かれはこれを感じている。かれの心はこのために裂かれた。かれは労し・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
出典:青空文庫