・・・ ある晩、町のカフェーで、学生たちと論争したとき、そのときは酔ってもいたが、小野はあいてのあごの下に顔をつきだしながらいった。「――それで、諸君が、レーニンさんになんなはっとだろうたい」 しかし、つりがねマントの学生たちは、長野・・・ 徳永直 「白い道」
・・・をめぐる論争とその人間図絵の過程を通って、いわばわたしは、わたしとして真実身についた階級的抵抗力をもつことができたのであった。 一九三三年以後のかしましく苦しい転向の問題、その問題がおこるような社会的心理を根底にもって、社会主義リアリズ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・長篇を書く途中での論争を欲しなかった私について、あらゆるいいたいことが自由にいわれている。現に河上氏がやっているとおりに。しかし私はこのごろだまりすぎていることの害を知った。特に党機関紙にどういう形式と方法をとおしてにしろ本質をゆがめて特徴・・・ 宮本百合子 「河上氏に答える」
・・・三、各文学団体の間に行われる理論上のいろいろな論争を工場でやれ。四、われわれ革命的生産に従事する労働者は、作家の師匠役をする決心をした。ソヴェト作家団体連盟と赤色陸海軍作家同盟とは、その具体的なプランを示してくれ。 更にラップは・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・という言句をめぐる論争の性格を検べて見てもよくわかる。小林多喜二は人民解放史と文学史との上にうけとられているというより、もっと生々しく、現代の心理のなかに生きている。不幸にして、その心理は、日本人民がファシズム権力にひしがれつづけて来た被抑・・・ 宮本百合子 「小林多喜二の今日における意義」
・・・かつても文学の流派と流派との間の論争や衝突は日本の文学に於ても激しいものがなくはなかった。しかし、それらの時期に文学に従事していた人々は、いずれも根本に於ては文学そのものの人間生活に於ける価値に確信を持っていたのであるし、その確信の上に立っ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・フランス、イギリスその他ヨーロッパ諸国のとおり、日本も明治維新によって、ブルジョア革命を完成しきった近代市民社会になっているのか、あるいはそうでないかという点について、大論争が行われていた。山川均を中心とする労農派は、明治維新によって日本の・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ ちょっと見ると不思議に思えるこの現象は、人民戦線時代の文学の論争を見ても明瞭である。社会主義リアリズムの論争についても微妙な特色となっていた。そして今日、またこの苦しい自己撞着が自我の確立の問題についてあらわれている。 わたしたち・・・ 宮本百合子 「自我の足かせ」
・・・芸術性というものは、文学史のあらゆる時代を通して常に論争の中心となって来ている。新しい文学の理論は、過去の芸術性の永遠普遍という観念に対して、その一般論を否定して立ったのであったが、当時は、作品の内容としての世界観、形式としての芸術性という・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ア文学におけるこれらの諸課題=リアリズムの問題も、外国の古典作品の研究、明治文学の再吟味などすべてが、文学創作にとって実際上新生面を打開する積極的な役割ははたし得ず、かえって抽象的な不安とともに文学の論争を流行させる結果にたちいたったことで・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
出典:青空文庫