・・・それだからなかなか一度や二度の訪問でこれだけの諸点を観察することは容易でない。然るに映画の場合では撮影者が長い時間とフィルムを費やして撮影した夥しい材料の中から、無駄なものを省略し、最も重要なものだけを選び出し、それを巧みに編輯してあるから・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・実際連句一巻の形式はソナタのごとき音楽形式とかなりまで類似した諸点をもつのである。連句が全体を通じて物語的な筋をもたないから連句は低級なものであると考えるのは、表題音楽が高級で、ソナタ、シンフォニーが低級であるというのと同様である。連句は音・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・これは一見はなはだしく奇抜な対比のように聞こえるであろうが、しかし自分が以下に述べんとする諸点を正当に理解される読者にとってはこうした一見奇怪な見方が決して奇怪でないことを了解されるであろうと思われる。 日本人のこうした自然観がどうして・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・ そこで二人の証言から互いに一致する諸点を総合してみると、だいたい次のようなものである。 ベランダから池の向こうの踊り場を正視していたときに、正面から左方約四十五度の方向で仰角約四十度ぐらいの高さの所を一つの火の玉が水平に飛行したと・・・ 寺田寅彦 「人魂の一つの場合」
・・・そうして私はまたこの夢の心理なるものがはなはだしく連句の心理に共有なる諸点を備えていることを発見して驚かなければならないのである。 フロイドの考えでは顕在的な「夢内容」の底には潜在的な「夢思想」なるものが流動している。前者の表面的な並列・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・評家は自己の得意なる趣味において専門教師と同等の権力を有するを得べきも、その縄張以外の諸点においては知らぬ、わからぬと云い切るか、または何事をも云わぬが礼であり、徳義である。 これらの条項を机の上に貼り附けるのは、学校の教師が、学校の課・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・この見地からその特色を数えるならば次の諸点に帰する。一 これは正しいものの種子を有し、その美しい発芽を待つものである。しかもけっして既成の疲れた宗教や、道徳の残滓を、色あせた仮面によって純真な心意の所有者たちに欺き与えんとするもので・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・点、自分が女性としての性的生活を完全に営んでいなかった事又は、女性の一人として同性の裡に入っていると、自分達の特性に対して馴れ切って無自覚に成りがちであると一緒に、却って欠点が互に目に付くと云うような諸点から、今まで自分にとって女性の生活は・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・ 不満な諸点にかかわらず、その直接性に於て此よりよいと云うものは感じられない。テキスト・ブック、としてでなく、ローマ字で、小説も書く気には、到底なれません。落付いて考えて見ると或る国民を代表する程の文学者は、知的、感情的両方面に、自ら最・・・ 宮本百合子 「芸術家と国語」
・・・作品そのもので、題材と主題との関係で今私がとりあげたく思っている諸点、芸術化されるべきであると思っている諸世相を書いてゆくつもりです。大変たのしみであるし、きっとあなたによろこんでいただけるものがかけそうです。丁度お産をする母が肉体的に出産・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫