・・・もっとも読者諸賢に対して、作者は謹んで真面目である。処を、信也氏は実は酔っていた。 宵から、銀座裏の、腰掛ではあるが、生灘をはかる、料理が安くて、庖丁の利く、小皿盛の店で、十二三人、気の置けない会合があって、狭い卓子を囲んだから、端から・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ 半日隙とも言いたいほどの、旅の手軽さがこのくらいである処を、雨に降られた松島見物を、山の爺に話している、凡杯の談話ごときを――読者諸賢――しかし、しばらくこれを聴け。 二 小県凡杯は、はじめて旅をした松島で・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ 茲に今林氏の好意に酬い、且その後の研究を述べて、儒家諸賢の批判を請はんと欲す。而して林氏の説に序を逐うて答ふるも、一法なるべけれど、堯舜禹の事蹟に關する大體論を敍し、支那古傳説を批判せば、林氏に答ふるに於いて敢へて敬意を失することなか・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・これについてはひたすらに読者ならびに同門下諸賢の寛容を祈る次第である。 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・よって今、論者諸賢のため全篇通読の便利を計り、これを重刊して一冊子となすという。 明治一六年二月編者識と記すべき法なるを、ある時、林大学頭より出したる受取書に、楷書をもって尋常に米と記しければ、勘定所の俗吏輩、いかでこれを許すべき・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・を操っていたうちはともかくそれぞれの立場から人間らしき知慧の明るさを求めていたのに、辛うじて平易な日本文を書き出したと同時に知性を喪失したとあっては、一九四〇年を目ざして、明朗な文化高揚のため砕心する諸賢においても、些か憂慮を要する次第であ・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
出典:青空文庫