・・・近隣親族の徒が、この美しい寝顔の前で埋葬を議することを、痛く不快に感じた。自分もつまりはそれに従うのほかないのであってみれば、自分もやはり世間一流の人間に相違ないのだ。自分はこう考えて、浮かぶことのできない、とうてい出ずることのできない、深・・・ 伊藤左千夫 「奈々子」
・・・ 神イエスキリストをもて人の隠微たることを鞫き給わん日に於てである、其日に於て我等は人を議するが如くに議せられ、人を量るが如くに量らるるのである、其日に於て矜恤ある者は矜恤を以て審判かれ、残酷無慈悲なる者は容赦なく審判かるるのである、「我等・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・戦敗の世は人挙って米の価を議するにいそがしく、花を保護する暇がないであろう。 真間の町は東に行くに従って人家は少く松林が多くなり、地勢は次第に卑湿となるにつれて田と畠とがつづきはじめる。丘阜に接するあたりの村は諏訪田とよばれ、町に近いあ・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・十中の八、九は事を議するが為めに会するに非ず、議事の名を利用して集るものなり。交際の為めに飲むに非ずして飲む為めに交わるものなり。其飲食遊戯の時間は男子が内を外にするの時間にして、即ち醜体百戯、芸妓と共に歌舞伎をも見物し小歌浄瑠璃をも聴き、・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・たとえば世に、商売工業の議論あり、物産製作の議論あり、華士族処分の議論あり、家産相続法の議論あり、宗旨の得失を論ずる者あり、教育の是非を議する者あり、学校設立の説を述る者あり、文字改革の議を発する者あり。 いずれも皆、国の文明のために重・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・平民の知徳を開き、これをして公に民事を議するの権を得せしむる者も、この子女ならん。自から労して自から食らい、一身一家の独立をはかり、ついに一国を独立せしむる者も、この子女ならん。広く外国と交を結び、約束に信を失わず、貿易に利を失わしめざる者・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
出典:青空文庫