・・・しかし三毛の死はみんなが惜しんでいるという自覚が自分の心の負担をいくぶん軽くするように思われるのであった。三毛の死後数日たって後のある朝、研究所を出て深川へ向かう途中の電車で、ふいと三毛の事を考えた。そして自然にこんな童謡のようなものが口ず・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・事件は内済にするには彼の負担としては過大な治療金を払わねばならぬ。姻戚のものとも諮って家を掩いかぶせた其の竹や欅を伐ることにした。彼は監獄署へ曳かれるのは身を斬られるよりもつらかった。竹でも欅でも何でも惜しくないと彼は思った。だが其頃はまだ・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・どうせ無関係な第三者がひとの艶書のぬすみ読みをするときにこっけいの興味が加わらないはずはないわけであるが、書き手が節操上の徳義を負担しないで済むくろうとのような場合には、この興味が他の厳粛な社会的観念に妨げられるおそれがないだけに、読み手は・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・昔の道徳すなわち忠とか孝とか貞とかい字を吟味してみると、当時の社会制度にあって絶対の権利を有しておった片方にのみ非常に都合の好いような義務の負担に過ぎないのであります。親の勢が非常に強いとどうしても孝を強いられる。強いられるとは常人として無・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・左れば人生の苦楽相半し、其歓楽の一方は男子の専有にして、女子には生涯苦労の一方のみを負担せしめんとするか、無理無法も亦甚だしと言う可し。左なきだに凡俗社会の実際を見れば、婦人は内を治め男子は外を勉むると言う。其内外の趣意を濫用して、男子の戸・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
日本の民主化と云うことは実に無限の意味と展望を持っている。 特に一つ社会の枠内で、これまで、より負担の多い、より忍従の生活を強いられて来た勤労大衆、婦人、青少年の生活は、社会が、封建的な桎梏から自由になって民主化すると・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・日本の民主化されていない家庭では、女の負担が実に多い。それでもまじめな人たちはアルバイトまでして勉強しています。真剣に社会について考えている。女の子は汗じみたなりを辛抱しているという一つのことにしても、男の学生よりは生理的に心理的に苦痛が多・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 婦人の性の本来は生殖に重点をおかれているのであるから、社会労働は、常に男の補助の範囲であるのが自然であり、従って賃銀も、いわゆる世帯主としての負担のにない手である男よりやすいのが当然であるとする論者がある。こういう立場の論者は、男も女・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・し、男として愛するから良人としての関係にいるのか月給袋をもって来るから旦那様として大事に扱われるのか、そのところが生活の心持で分明をかいているというような女らしさには、可憐というよりは重く肩にぶら下る負担を感じているであろう。 そんな心・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・しかし、少女時代の労働のために健康を失ったこの作者が、妻、母として、党員として東北の小さい町に負担の多い生活とたたかいながら一つ一つ作品を重ねて来ているうちに、次第に爆発的な悲憤と反抗とが、階級的な作家としてのリアリスティックな能力に高めら・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
出典:青空文庫