・・・普通の大臣豪族よりも、有意義な生活を送って、皆それぞれに人生の大目的に貢献しております。 理想とは何でもない。いかにして生存するがもっともよきかの問題に対して与えたる答案に過ぎんのであります。画家の画、文士の文、は皆この答案であります。・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・人類の発展と幸福のために、真に貢献する学問と学問そのものの尊重の精神が確立されなければならない。このことは、民族の理性を守る仕事であり、人権擁護のためのたたかいのまぎれもない一面である。〔一九五〇年十二月〕・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・――インガは彼女のよいもちものをドミトリーに、ドミトリーはインガにない力を、互に与えあって、益々豊富な新しい社会への貢献をする望みだった。その重大な意味をドミトリーはどうも理解しない。「俺は知ってるよ、お前がグラフィーラでないってことは・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・ファーブルの昆虫記は卓抜精緻な観察で科学上多くの貢献をしているし、縦横に擬人化したその描写は、それらの本が出た十九世紀の末から今日まで、そしてなおこれからもあらゆる年齢と社会層の読者を魅してゆくだろうと思われる。けれども文化の感覚が成長して・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・困難な仕事であろうが、文化貢献の為乗り出して下さる出版社がないものだろうか。〔一九三六年六月〕 宮本百合子 「業者と美術家の覚醒を促す」
・・・ 魯迅は一九三五年ごろに、中国の新しい文化の発展のために多大の貢献をした一つの仕事として、ケーテ・コルヴィッツの作品集を刊行した。その中国版のケーテの作品集には、ケーテの国際的な女友達の一人であるアグネス・スメドレイの序文がつけられた。・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・の三百年祭の事を知らせてよこした時なんぞは、秀麿はハルナックをこの目覚ましい祭の中心人物として書いて、ウィルヘルム第二世とハルナックとの君臣の間柄は、人主が学者を信用し、学者が献身的態度を以て学術界に貢献しながら、同時に君国の用をなすと云う・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ 今度の世界戦争は恐らく Menschheit の向上に何ら貢献するところがないだろう。物質主義はますます勢力を得るに相違ない。しかし断然たる反動は必ず起こらねばならぬ。我々は第二の Renaissance を期待する。新しい価値、自由・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
・・・あらゆる発明と発達とはその成果を戦場に並べ立て、あらゆる個々の進歩はその戦争への貢献によって一時に我々の注意を刺激する。戦前の十年もついに戦争中の一年に如かない。 このことはおそらく狂気じみたいら立たしさ――持続の意力をほとんど完全に欠・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・ 周知の通り、林檎が樹から落ちるのを不思議に感じて問題としたことが、近代物理学への重大貢献となった。あたり前の現象として人々が不思議がらない事柄のうちに不思議を見出すのが、法則発見の第一歩なのである。寺田さんは最も日常的な事柄のうちに無・・・ 和辻哲郎 「寺田寅彦」
出典:青空文庫