・・・小島の所有者かならずしも貧者ではありません。善くこれを開発すれば小島も能く大陸に勝さるの産を産するのであります。ゆえに国の小なるはけっして歎くに足りません。これに対して国の大なるはけっして誇るに足りません。富は有利化されたるエネルギーであり・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・私は、私の流儀で、この機会に貧者一燈を、更にはっきり、ともして置きます。 八年前の話である。神田の宿の薄暗い一室で、私は兄に、ひどく叱られていた。昭和八年十二月二十三日の夕暮の事である。私は、その翌年の春、大学を卒業する筈になっていたの・・・ 太宰治 「一燈」
・・・今夜は、どうも、他に話題も無いし、せっかくおいで下さったのになんのおかまいも出来ず、これでは余り殺風景ですから、窮した揚句の果に、こんなものを持ち出したのですから、そこのところは貧者一燈の心意気にめんじて、面白くもないだろうけれど見てやって・・・ 太宰治 「小さいアルバム」
・・・貧乏は悪徳である、貧者はその自覚の抑圧に苦しみ、富の美徳を獲得せんと焦慮するために働きあるいは盗み奪う……」 呉服の地質の種類や品位については全く無知識な自分も、染織の色彩や図案に対しては多少の興味がある。それで注意して見ると、近ごろ特・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・この学問に暗き者は、自から富むも、その富のよって来たるところを知らず、自から貧なるも、その貧をいたせし源由を知らざれば、富者は貧をいたしやすく、貧者は富を得がたし。ゆえに経済書を学ばざるものは、巨万の富豪も無産の貧漢に異ならず。第九・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・私共のような知識階級の貧者、同時に生活の愛好者には都会が住みよいことを発見した。そこで生れ育った人間には理屈以外都会に牽きつけられる本能があることをも感じる。―― それやこれや貸家物色中だが、今一番困ることは、家の寒いことだ。田舎らしく・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
出典:青空文庫