・・・甚太夫は平太郎の死に責任の感を免れなかったのか、彼もまた後見のために旅立ちたい旨を申し出でた。と同時に求馬と念友の約があった、津崎左近と云う侍も、同じく助太刀の儀を願い出した。綱利は奇特の事とあって、甚太夫の願は許したが、左近の云い分は取り・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・と云っても、勿論彼が、彼のした行為のあらゆる結果に、責任を持つ気でいた訳ではない。彼等が復讐の挙を果して以来、江戸中に仇討が流行した所で、それはもとより彼の良心と風馬牛なのが当然である。しかし、それにも関らず、彼の心からは、今までの春の温も・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・それゆえこの農場も、諸君全体の共有にして、諸君全体がこの土地に責任を感じ、助け合って、その生産を計るよう仕向けていってもらいたいと願うのです。 単に利害勘定からいっても、私の父がこの土地に投入した資金と、その後の維持、改良、納税のために・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・ブルジョアの勢いが失墜して、第四階級者が人間生活の責任者として自覚してきた場合に、クロポトキン、マルクス、レーニンらの思想が、その自覚の発展に対して決して障碍にならないばかりでなく、唯一の指南車でありうると誰がいいきることができるか。今は所・・・ 有島武郎 「片信」
・・・一体歌人にしろ小説家にしろ、すべて文学者といわれる階級に属する人間は無責任なものだ。何を書いても書いたことに責任は負わない。待てよ、これは、何日か君から聞いた議論だったね。A どうだか。B どうだかって、たしかに言ったよ。文芸上の作・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
・・・今にはじめぬことながら、ほとんどわが国の上流社会全体の喜憂に関すべき、この大いなる責任を荷える身の、あたかも晩餐の筵に望みたるごとく、平然としてひややかなること、おそらく渠のごときはまれなるべし。助手三人と、立ち会いの医博士一人と、別に赤十・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・もう、人を頼まず、自分が自分でその場に全責任をしょうよりほかはない。 こうなると、自分に最も手近な家から探ぐって行かなければならない。で、僕は妻に手紙を書き、家の物を質に入れて某の金子を調達せよと言ってやった。質入れをすると言っても、僕・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・丁度その頃、或る処で鴎外に会った時、それとなく噂の真否を尋ねると、なかなかソンナわけには行かないよ、傍観者は直ぐ何でも改革出来るように思うが、責任の位置に坐って見ると物置一つだって歴史があるから容易に打壊す事は出来ない、改革に焦ったなら一日・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・もし私に金がたくさんあって、地位があって、責任が少くして、それで大事業ができたところが何でもない。たとい事業は小さくても、これらのすべての反対に打ち勝つことによって、それで後世の人が私によって大いに利益を得るにいたるのである。種々の不都合、・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・しかし世の中には子供に対して責任感の薄い母も多い。が、そういう者は例外として、真に子供の為めに尽した母に対してはその子供は永久にその愛を忘れる事が出来ない。そして、子供は生長して社会に立つようになっても、母から云い含められた教訓を思えば、如・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
出典:青空文庫