・・・在昔大名高家の子供に心身暗弱の者多かりしも、貴婦人が子を産むを知て子を養育する法を忘れたるが故なり。篤と勘考す可き所のものなり。故に我輩は婦人の外出を妨げて之を止むるに非ず、寧ろ之を勧めて其活溌ならんことを願う者なれども、子供養育の天職を忘・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・それはどんな貴婦人でも、どんな賤しい女でも、わたくしの夢までを奪ってしまうことは出来ないからでございます。それにわたくしには可笑しい自負心がございますの。それはわたくしが十六年前にあなたにいたしたような、はにかみながらのキスに籠もっているほ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・而も、その靴が、子供らしい尨犬のようなのではなく、細く、踵がきっと高く、まるで貴婦人の履き料のような華奢な形のものなのである。 十二三の女の子の眼を瞠らせずには置かない。私は、驚いたり、羨しかったりで、熱心に眺めた。ところが、どうしたの・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・「港に働く婦人たちは、社交上の因習のためにあらゆる言動を狭ばめられている上流の貴婦人たちよりも、その姿、その本質をより多く私に示してくれました。彼女たちは、その手を、その脚を、その髪を見せてくれます。着物をとおして肉体をみせてくれます。そし・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・勇敢な勝利者としてデスデモーナという、美しいヨーロッパの貴婦人を妻にした。ところがオセロの幕下にイヤゴーという奸物がいる。イヤゴーは単純で正直な人々の生活を、自分の奸智でかき乱して、その効果をよろこぶという、たちのわるい生れつきである。従順・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
○パオリのこと ○父と娘との散策 ○武藤のこと ○貴婦人御あいての若い女 ○夢 ○隣の職工の会話 ○夜の大雨の心持。 ○小野、山岡、島野、(態度 ○十月一日 ○日々草 ×柳やの女中の・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・六月三日は動物愛護デーというので外国から来ている貴婦人たちが天皇の子息である少年を左右から囲んで「なごやかな交歓」をした写真が二面に出ている。その一面には三十一日来四十時間のとりしらべののち五年、七年、十年と重労働刑を判決申しわたされた八人・・・ 宮本百合子 「動物愛護デー」
・・・「だって――貴婦人が来たら困っちゃうのよ皆」 第三日 長崎は雨の尠いところだそうだのに、今朝も、雲母を薄く張ったような空から小糠雨が降って居る。俥で、福済寺へ行く。やはり、南京寺の一つ、黄檗宗に属す。この寺・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・バルザックがヴェニスやハンガリー、ポーランドやロシアなどで熱烈に愛読され、社交界の貴婦人、紳士がバルザックの作品に現れた人物の名を名乗ってその役割りに扮そうという言いあわせをして或るシーズンはランジェー公夫人だのラスティニャクが社交界に現れ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・「昨晩私のそばにいた貴婦人がひとり急に痙攣ちゃって、大騒ぎでしたの。そのかたも喜劇を演りにペテルスブルグへいらっしゃるんですって。デュウゼとかって名前でしたよ。ご存じでいらっしゃいますか。」そういってその娘の指さす方を見ると、うなだれた暗い・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫