・・・ペテンにかけられた雑穀屋をはじめ諸商人は貸金の元金は愚か利子さえ出させる事が出来なかった。 「まだか」、この名は村中に恐怖を播いた。彼れの顔を出す所には人々は姿を隠した。川森さえ疾の昔に仁右衛門の保証を取消して、仁右・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・其後又、今度は貸金までして仕度をして何にも商ばいをしない家にやるとここも人手が少なくてものがたいのでいやがって名残をおしがる男を見すてて恥も外聞もかまわないで家にかえると親の因果でそれなりにもしておけないので三所も四所も出て長持のはげたのを・・・ 著:井原西鶴 訳:宮本百合子 「元禄時代小説第一巻「本朝二十不孝」ぬきほ(言文一致訳)」
・・・安二郎もどうやら痩せてきた。貸金の取りたてに走り廻っている留守中、お君が山谷に会っているかもしれないと思うと、もう慾も得もなく、集金の途中で帰ってしまうのだった。――そんな安二郎の苦悩はいま豹一は隅々まで読みとれた。「じつはお前の居所を・・・ 織田作之助 「雨」
・・・また、区内の戸毎に命じて、半年に金一歩を出ださしめ、貸金の利足に合して永続の費に供せり。ただし半年一歩の出金は、その家に子ある者も子なき者も一様に出ださしむる法なり。金銀の出納は毎区の年寄にてこれを司り、その総括をなす者は総年寄にて、一切官・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・ まさか一月分ホイホイ出す人もないだろうから…… 栄蔵は、よく丁寧に、田舎の貸金の事を話した。 フム、フム、と鼻をならして聞いて居たお金は話が仕舞うか、仕舞わないに、「あんた、ほんとにそれの世話を焼くつもりで居るんで・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・しかしながら、新聞は、繭の高価を見越し、米の上作を見越して債権者はこの秋こそ一気に数年来の貸金をとり立てようとしているから、それを注意せよ、当局もそこから生じる紛争を警戒している、というのである。農民は今日の社会的事情にあっては、実った稲を・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
出典:青空文庫