・・・ この土地の開墾については資金を必要としたことに疑いはありません。父は道庁への交渉と資金の供給とに当たりました。そのほか父はその老躯をたびたびここに運んで、成墾に尽力しました。父は、私が農学を研究していたものだから、私の発展させていくべ・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・「その金はその頃競馬の資金に、細君に内緒で本の間へかくして置いたんだ。あいつ競馬というと、金を出さなかったからね」「たった百円か」「いや、あっちこっち入れて置いたから、探せばもっとある筈だ。旧円の預け入れの時想いだしたんだが、ど・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・ そこで、考えた丹造は資金調達の手段として、支店長募集の広告を全国の新聞に出した。「妻子養うに十分の収益あり」という甘い文句の見出しで、店舗の家賃、電灯・水道代は本舗より支弁し、薬は委託でいくらでも送る。しかも、すべて卓効疑いのない・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・「二人は将来の生活地を北海道と決めていまして、相談も漸く熟したので僕は一先故郷に帰り、親族に托してあった山林田畑を悉く売り飛ばし、その資金で新開墾地を北海道に作ろうと、十日間位の積で国に帰ったのが、親族の故障やら代価の不折合やらで思わず・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・二日の午後三時に政府は臨時震災救護事務局というものを組織し、さしあたり九百五十万円の救護資金を支出して、り災者へ食糧、飲料水をくばり、傷病者の手あて以下、交通、通信、衛生、防備、警備の手くばりをつけました。同日午後五時に、山本伯の内閣が出来・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・ぼくが帰国したとき、前年義姉を失った兄は、家に帰り、コンムニュスト、党資金局の一員でした。あにを熱愛していたぼくは、マルキシズムの理論的影響失せなかったぼくは、直に共鳴して、鎌倉の別荘を売ったぼくの学費を盗みだして兄に渡し、自分も学内にR・・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・君には文才があるようだから、プロレタリヤ文学をやって、原稿料を取り党の資金にするようにしてみないか、と同志に言われて、匿名で書いてみた事もあったが、書きながら眼がしらが熱くなって来て、ものにならなかった。(この頃、ジャズ文学というのがあって・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・ 党へ献上の資金かね? わあっはっはっ、と無気味妖怪の高笑いのこして立ち去り、おそらくは、生れ落ちてこのかた、この検事局に於ける大ポオズだけを練習して来たような老いぼれ、清水不住魚、と絹地にしたため、あわれこの潔癖、ばんざいだのうと陣笠、む・・・ 太宰治 「創生記」
・・・国際文化振興会なぞをたよらずに異国へわれらの芸術をわれらの手で知らせてやろう。資金として馬場が二百円、私が百円、そのうえほかの仲間たちから二百円ほど出させる予定である。仲間、――馬場が彼の親類筋にあたる佐竹六郎という東京美術学校の生徒をまず・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・また、親が多年の辛苦でたくわえた貯金を赤いむすこや娘が運動資金に持ち出したとすれば、その場合のさるは子供でかにはおやじである。さらにその子供を使嗾して親爺の金を持ち出させた親ざるはやはり一種の搾取者である。 桃太郎が鬼が島を征服するのが・・・ 寺田寅彦 「さるかに合戦と桃太郎」
出典:青空文庫