・・・猫と杓子が寄ってたかって、戦争だ、玉砕だ、そうだそうだ、賛成だ賛成だ、非国民だなどと、わいわい言っているうちに、日本は負け、そして亡びかけたのです。 猫であり、杓子であるということは、つまり自分の頭でものを考えないということであります。・・・ 織田作之助 「猫と杓子について」
・・・それがいつか彼の口から出版屋の方へ伝わり、出版屋の方でも賛成ということで、葉書の印刷とか会場とかいうような事務の方を出版屋の方でやってくれることになったのだ。だからむろん原口や私の名も、そのうちにはいっていなければならぬはずだ。それを勝手に・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・と尋ねてくれたとすれば彼はその名づけ方に賛成したかもしれない。しかし自分では「まだなにか」という気持がする。 人種の異ったような人びとが住んでいて、この世と離れた生活を営んでいる。――そんなような所にも思える。とはいえそれはあまりお伽話・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・学英語の初歩などを授けたが源因となり、ともかく、遊んでばかりいてはかえってよくない、少年を集めて私塾のようなものでも開いたら、自分のためにも他人のためにもなるだろうとの説が人々の間に起こって、兄も無論賛成してこの事を豊吉に勧めてみた。 ・・・ 国木田独歩 「河霧」
・・・「大に賛成ですなア」と静に沈重いた声で言った者がある。「賛成でしょう!」と近藤はにやり笑って岡本の顔を見た。「至極賛成ですなア、主義でないと言うことは至極賛成ですなア、世の中の主義って言う奴ほど愚なものはない」と岡本はその冴え冴・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・この意味においては、われわれは蘇露のコロンタイ女史の如く、一にも二にも託児所主義であって、男子も婦人も家庭外に出て働くのが理想的であるという考え方にはとうてい賛成できない。 子どもの哺乳と養育とは母親にとって、もっと重く関心と、心遣いせ・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・ お里はすぐ賛成した。 山の団栗を伐って、それを薪に売ると、相当、金がはいるのであった。 二 正月前に、団栗山を伐った。樹を切るのは樵夫を頼んだ。山から海岸まで出すのは、お里が軽子で背負った。山出しを頼むと・・・ 黒島伝治 「窃む女」
・・・ 田口は、メリケン兵を悪く云うのには賛成しないらしく、鼻から眉の間に皺をよせ、不自然な苦い笑いをした。栗本は、将校に落度があったのか、きこうとした。が、丁度、橇からおりた者が、彼のうしろから大儀そうにぞろ/\押しよせて来た。彼は、それを・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・皆も賛成だった。窪田さんは山崎のお母さんの家にして、日と時間を決めて帰って行った。――こんなに弾圧が強く、全部の組織が壊滅してしまったとき、この遺族のお茶の集まりだって又新しく仕事をやって行く何かの足場になるのではないか、さすがしっかりもの・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・「太郎さんのところからも賛成だと言って来ている。ほんとに僕がその気なら、一緒にやりたいと言って来ている。」「そうサ。お前が行けば太郎さんも心強かろうからナ。」 私は次郎とこんな言葉をかわした。 久しぶりで郷里を見に行く私は、・・・ 島崎藤村 「嵐」
出典:青空文庫