・・・もっともこれはコーヘンとともに新カント派のいわゆる形式主義の倫理学であって、流行の「実質的価値の倫理学」とは相違した立場であるが、それにもかかわらず、深い内面性と健やかな合理的意志と、ならびに活きた人生の生命的交感とをもって、よく倫理学の本・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ひとつのフレエズに於いてさえ、すでにこのように質的変化が行われている。 病トロツキイが、死都ポンペイを見物してあるいているニュウス映画を見たことがある。涙が出たくらいに、あわれであった。私たちの古典に対する、この光景と酷似して居る。・・・ 太宰治 「古典竜頭蛇尾」
・・・その理由は第一こういう教育は官辺の影響のために本質的に出来にくいし、また頭の成熟しないものが政治上の事にたずさわるのは一体早過ぎるというのである。その代り生徒に何かしら実用になる手工を必修させ、指物なり製本なり錠前なりとにかく物になるだけに・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・しかし復興期の学者と古代ギリシアの学者との本質的な相違は、後者特にアテンの学派が「実験」を賤しい業として手を触れなかったのに反して、前者がそういう偏見を脱却して、ほんとうの意味のエキスペリメントを始めた点にあると思われる。ガリレー、トリツェ・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・の作者が徐々に大衆文学に移って行ったその時代に日本の文学は質的に一変転を経過して、このような個人としての利害に行動した甚兵衛も猶当時の周囲の農民の生活のありようの中でみれば、一個の犠牲であった歴史の現実までを描き出そうという努力を自覚する時・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ 現実に対する洞察、理解、働きかけが、外見は全く同一のような二つの本質的に異る現象に対して正当な客観的評価を失ったとしたら、その結果は事実のありようを全然取りちがえることになる。卑近な例をとってここに一人熱を出してねている人があるとする・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・ 芥川の死の前後、昭和初頭前後から、日本の文学は、その流れの中に、昔ながらの一つ流れから只岐れたというばかりの相違ではない相異を質的に主張したプロレタリア文学が強い潮騒いをもって動きはじめた。 この文学運動が日本文学にもたらした消え・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・このような統制は本質的には、一般的に人間の知性の否定、或は一方的な抑圧を意味するのである。文化の相関的一翼として文学においてもこの現象は今日あきらかに現れている。それは後にふれることとして、最近石原純氏が、所謂統制に反対の立場において書かれ・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・稟質的には相当激しいものを持ちつつどちらかというと主観的な題材やテーマの作品を書いている作者は、この「小さき歩み」で昔とはずいぶん違った広い世界へ踏み出している。扱われている感情も複雑で、客観的な作者の観察、洞察、史観を要求するのである。ア・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・しかし語られている現実について見ると、ソヴェトの文化の質的向上は、一見批評性の否定を意味するかのようなその小見出しの字面とは反対に、或る社会では、健全な社会性というものと文学作品に対する批評性とが一致して発露し得るという明るい現実の可能を示・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
出典:青空文庫