・・・宮崎は越中、能登、越前、若狭の津々浦々を売り歩いたのである。 しかし二人がおさないのに、体もか弱く見えるので、なかなか買おうと言うものがない。たまに買い手があっても、値段の相談が調わない。宮崎は次第に機嫌を損じて、「いつまでも泣くか」と・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・伊織が幸橋外の有馬邸から、越前国丸岡へ遣られたのは、安永と改元せられた翌年の八月である。 跡に残った美濃部家の家族は、それぞれ親類が引き取った。伊織の祖母貞松院は宮重七五郎方に往き、父の顔を見ることの出来なかった嫡子平内と、妻るんとは有・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・ 早雲と同じころに擡頭した越前の朝倉敏景も注目すべき英雄である。朝倉氏はもと斯波氏の部将にすぎなかったが、応仁の乱の際に自立して越前の守護になった。そうして後に織田信長にとっての最大の脅威となるだけの勢力を築き上げたのである。『朝倉敏景・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫