・・・前にいえる棄てて顧みずとは、父子の間柄にても、その独立自由を妨げざるの趣意のみ。西洋書の内に、子生れてすでに成人に及ぶの後は、父母たる者は子に忠告すべくして命令すべからずとあり。万古不易の金言、思わざるべからず。 さてまた、子を教うるの・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・されば今日の政治家が政事に熱心するも、単に自身一時の富貴のためにあらず、天下後世のために、国民の私権を張り公権を伸ばすの道を開かんとするの趣意にこそあれば、後の世の政治社会に宜しからざる先例を遺すは、必ず不本意なることならん。もしもその本心・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・第一審判決後の第一信に「裁判長の趣意は、今の私の立場も心境も充分認めた上、命をもって国民に詫びよ、というのです」と平静に告げられている。そのくだりを読んだとき、私の心には一つの叫びがあった。「命をもって詫びよ。それは尾崎氏らを殺した人々に向・・・ 宮本百合子 「人民のために捧げられた生涯」
・・・そして趣意書を印刷し、それを発送する仕事がはじまった。創立大会を準備する仕事がはじまった。同時に、敗戦後第一回の選挙がせまって、日本の婦人たちがはじめて政治上に意志をあらわす機会もきた。この事情は、はじめぼんやりとした日本の社会と婦人の生活・・・ 宮本百合子 「その人の四年間」
・・・もともと家庭婦人の動員を眼目にしているから托児所の施設をも条件とし、女の労働力の社会的吸収と同時に、労務管理の改善をも計るのが趣意とされている。働き先は、この場合にも軍需産業が第一位を占めている。調査に対して答えたこれらの家庭婦人たちの就職・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
・・・大な啓蒙学者であった福沢諭吉が読んで、「女大学は古来女子社会の宝書と崇められ一般の教育に用いて女子を警しむるのみならず女子が此教に従って萎縮すればするほど男子の為めに便利なるゆえ男子の方が却て女大学の趣意を唱え以て自身の我儘を恣にせんとする・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・子爵にも手紙の趣意はおおよそ呑み込めた。 西洋事情や輿地誌略の盛んに行われていた時代に人となって、翻訳書で当用を弁ずることが出来、華族仲間で口が利かれる程度に、自分を養成しただけの子爵は、精神上の事には、朱子の註に拠って論語を講釈するの・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・「それは目安箱をもお設けになっておる御趣意から、次第によっては受け取ってもよろしいが、一応はそれぞれ手続きのあることを申し聞かせんではなるまい。とにかく預かっておるなら、内見しよう。」 与力は願書を佐佐の前に出した。それをひらいて見・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・そのうちにこういう小説がぽつぽつと禁止せられて来た。その趣意は、あんな消極的思想は安寧秩序を紊る、あんな衝動生活の叙述は風俗を壊乱するというのであった。 丁度その頃この土地に革命者の運動が起っていて、例の椰子の殻の爆裂弾を持ち廻る人達の・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・しかしこれには単に訳本をして自ら語らしめる、否訳文をして自ら語らしめると云う趣意ばかりで無く、別に理由がある。大抵訳本に添えて書くべき事は、原書の由来とか原作者の伝記とか云うもので、その外は飜訳の凡例のような物であろう。その原書の由来と説明・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫