-
・・・その子息の一人を跡目にして、養子願さえすれば、公辺の首尾は、どうにでもなろう。もっともこれは、事件の性質上修理や修理の内室には、密々で行わなければならない。彼は、ここまで思案をめぐらした時に、始めて、明るみへ出たような心もちがした。そうして・・・
芥川竜之介
「忠義」
-
・・・ しかるに一種変った跡目の処分を受けたのは、阿部弥一右衛門の遺族である。嫡子権兵衛は父の跡をそのまま継ぐことが出来ずに、弥一右衛門が千五百石の知行は細かに割いて弟たちへも配分せられた。一族の知行を合わせてみれば、前に変ったことはないが、・・・
森鴎外
「阿部一族」