・・・自分の後継者であるべきものに対してなんとなく心置きのあるような風を見せて、たとえば懲しめのためにひどい小言を与えたあとのような気まずい沈黙を送ってよこした。まともに彼の顔を見ようとはしなかった。こうなると彼はもう手も足も出なかった。こちらか・・・ 有島武郎 「親子」
・・・随って椿岳の後継は二軒に支れ、正腹は淡島姓を継ぎ、庶出は小林姓を名乗ったが、二軒は今では関係が絶えて小林の跡は盛岡に住んでるそうだ。 が、小林にしろ淡島にしろ椿岳の画名が世間に歌われたのは維新後であって、維新前までは馬喰町四丁目の軽焼屋・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・この人は夏目さんの最も好い後継者ではあるまいか。 そしても一つ付加えれば、夏目さんは、殆んどといっても好い位い西洋の新らしい作を読んでいないと思う。 それは三、四年前に、マローの『ファウスト』とかスペンサーの或る作とかを頻りに耽読し・・・ 内田魯庵 「温情の裕かな夏目さん」
・・・自分で採って造ったものなら安心して売ることができるといっていましたが、私が、また死んだ親父の後継ぎをするようになりました。この手風琴も親父が持って歩いたものです。」 じいさんは、変わっている男だと思いました。町の薬屋へゆけば、このごろど・・・ 小川未明 「手風琴」
・・・その住職は多年諸国の行脚を思い立ちながら、寺の後継者の成長する日まで待ち、破れた本堂の屋根の修繕を終る日まで待ちするうちに、だんだん年をとってしまって、いよいよ行脚に出掛ける頃は既に七十の歳であったという。昼は昼食、夜は一泊、行くさきざきの・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・蒼ざめた、カリギュラ王は、その臣下の手に依って弑せられるところとなり、彼には世嗣は無く全く孤独の身の上だったし、この後、誰が位にのぼるのか、群臣万民ふるえるほどの興奮を以て私議し合っていた。後継は、さだめられた。カリギュラの叔父、クロオジヤ・・・ 太宰治 「古典風」
・・・ 伯爵家では郵便が来る度に、跡継ぎの報告を受け取って、その旅行の滞なく捗って行くのを喜び、また自分達の計略の図に当ったのを喜んでいる。金は随分掛かる。しかし構わない。旅行は功を奏するに違いないからである。それに報告が存外立派に書ける。殊・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ 良吉の妹が口を利いたので、母親がほんとでありながら、愛されて居なかったので、父親の意志で、恭二は良吉の後継者と云う事になった。 十九にもなったものを只食わしては置けないと云うので、あらんかぎりの努力をして漸う専売局の極く極く下の皆・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ごたついているところに目をつけて、例の満州へよく行く人物を、技術家の代理と称さして、先代と口約を交してあった後継息子のところへ株を貰いにやった。頼まれた人物は創立当時の価格でそれをうまく受けとって、現価で依頼人に売った。そのことは、半ヵ月も・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・今日の科学と今日の社会との間で、人間らしい勤勉さ、正義心、人類の発展に対する深い理解と信頼と、そのために献身する人々の生涯の価値が評価できる人間になるに役立つ文学が、小さい人々、われらの後継者のためになくてはならない。 女のひとの文学的・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
出典:青空文庫