・・・ 私が若し仏蘭西へ行ったと致しましたなら、拉丁民族の優雅な、理智と感情との調和に必ず心の躍る歓びを感じますでしょう。然し、私は矢張り其裡の不純を感じて、「けれども」と云う何物かを発見せずには居られませんでしょう。 何処にでも、人間の・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・一人の人間の裡にある可能を十分にのばそうとする千葉先生の偏見のない若々しい誠意が、私のうちのまともなものを急速に、よろこび躍るように育てて行ったのだと思われる。 それには千葉先生が担任でなくて、一定の距離と自由のある位置にいられたことも・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・愉快そうで、整然としていて、胸も躍る光景だ。「五ヵ年計画ヲ四ヵ年デ!」「ブルジョア反ソヴェト陰謀ヲブッ潰セ!」 次から次へ赤いプラカードが来る。あいまには、張物だ。ブルジョア、地主、坊主が、社会主義社会建設のために働くプロレタリ・・・ 宮本百合子 「勝利したプロレタリアのメーデー」
・・・ チラチラと眩ゆい点描きの風景、魚族のように真黒々な肌一杯に夏を吸いながら、ドブンと飛び込む黒坊――躍る水煙、巨大な黒坊、笑う黒坊、蛙のような黒坊。 卿はどうして其那に水が好きなのか。 如何うして其那に笑うのだろう、卿等は―・・・ 宮本百合子 「一粒の粟」
・・・そこへ出現して来た栖方の新武器は、聞いただけでも胸の躍ることである。それに何故また自分はその武器を手にした悪人のことなど考えるのだろうか。ひやりと一抹の不安を覚えるのはどうしたことだろうか。――梶は自分の心中に起って来たこの二つの真実のどち・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫