・・・から離れることが出来ず、きれいに気分を転換させて別の事を書くなんて鮮やかな芸当はおぼつかなく、あれこれ考え迷った末に、やはりこのたびは「右大臣実朝」の事でも書くより他に仕方がない、いや、実朝というその人に就いては、れいの三百枚くらいの見当で・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・佐野君は話題の転換をこころみた。「出征したのよ。」「誰が?」「わしの甥ですよ。」じいさんが答えた。「きのう出発しました。わしは、飲みすぎて、ここへ泊ってしまいました。」まぶしそうな表情であった。「それは、おめでとう。」佐野君・・・ 太宰治 「令嬢アユ」
・・・ 第一にはカットからカット、場面から場面への転換の呼吸がいい。たとえばおつたと茂兵衛とが二階と下でかけ合いの対話をするところでも、ほんのわずかな呼吸の相違でたまらなく退屈になるはずのがいっこう退屈しないで見ていられるのはこの編集の呼吸の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ここの気分の急角度の転換もよくできている。 モーリスがシャトーの玄関をはいってから、人けのない広間をうろつきまた駆け回る場面の伴奏も抑揚変化が割合によくできていて人を飽きさせない。 医者が姫君を診察するとき、心臓の鼓動をかたどるチン・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
・・・これが子音転換すれば「タマ」になる。 髑髏を「されかうべ」と言う。この「され」は「曝れ」かもしれないが、ペルシア語の sar は頭である。「唐児わげ」を「からわ」という。日本紀に角子を「あげまきからわ」と訓してあるそうで、もしかする・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・毎日の仕事に疲れた頭をどうにかもみほごして気持ちの転換を促し快いあくびの一つも誘い出すための一夕の保養としてはこの上もないプログラムの構成であると思われる。むしろ無意味に笑ったり、泣いたりすることの「生理的効果」のほうが実は大衆観客のみなら・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・に相違ないだろうが、これがヒチリキの子音転換とも見られるのがおもしろい。またポーランドのピスチャルカと称するものは六孔の縦吹きのした笛であるが、この品物自身もその名前とともにヒチリキに類するのが不思議である。 南洋のソロモン群島中のある・・・ 寺田寅彦 「日本楽器の名称」
・・・それが急に不徳義に転換するのである。問題は単に智愚を界する理性一遍の墻を乗り超えて、道義の圏内に落ち込んで来るのである。 木村項だけが炳として俗人の眸を焼くに至った変化につれて、木村項の周囲にある暗黒面は依然として、木村項の知られざる前・・・ 夏目漱石 「学者と名誉」
・・・は九十度の角度を一どきに廻ってしまった、その急廻転のために思いがけなき功名を博し得たと云う御話しは、明日の前講になかという価値もないから、すぐ話してしまう、この時まで気がつかなかったがこの急劇なる方向転換の刹那に余と同じ方角へ向けて余に尾行・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・言論が客観的な真理に立つ可能とその必然をますと共に、人民の生活意識が、人間らしい欲求の自覚とその行動に進むにつれ、新聞はおのずから一転換を誘われて、再び、金儲け事業としてではない新聞の内容と組織とになろうとしている。様々の形で、そういう動き・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
出典:青空文庫