･･･そこからまた一千メートル程のとこに第○師団第二野戦病院があって、そこへ転送され、二十四日には長嶺子定立病院にあった。その間に僕の左の腕が無うなっとった。寝台の上に仰向けになったまま、『おや腕が』と気付いたんやが、その時第一に僕の目に見えたん･･･ 岩野泡鳴 「戦話」
･･･行って、一週間も経ったかと思う頃、Ｋ町の家から転送された沢山の書簡に混って、一つ、私には判らない葉書が来た。 差出人は、同級会幹事の誰それとしてあり、宛名は、まぎれもない自分だ。けれども、内容がはっきり心に写らない。文句は、深田様がお産･･･ 宮本百合子 「追想」
･･･ 四月二十八日 今日、福井の方から転送されて来た国男の手紙を見る。 仮令感傷的だと云う点で非難はされるとしても、彼が深夜、孤り胸を満す寂寥に堪えかねて書いた文字は、自分を動かさずには置かない。心から心へと響いて来るのだ。･･･ 宮本百合子 「日記・書簡」
出典：青空文庫
