・・・彼れは場主と一喧嘩して笠井の仕遂せなかった小作料の軽減を実行させ、自分も農場にいつづき、小作者の感情をも柔らげて少しは自分を居心地よくしようと思ったのだ。彼れは汽車の中で自分のいい分を十分に考えようとした。しかし列車の中の沢山の人の顔はもう・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・のほうは注意次第でどんなにでも軽減されうる可能性があるのである。そういう見地から見ると大地震が来たらつぶれるにきまっているような学校や工場の屋根の下におおぜいの人の子を集団させている当事者は言わば前述の箱根つり橋墜落事件の責任者と親類どうし・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・ 颱風の災害を軽減するにはこれに関する国民一般の知識の程度を高めることが必要であると思われるが、現在のところではこの知識の平均水準は極めて低いようである。例えば低気圧という言葉の意味すらよく呑込めていない人が立派な教養を受けたはずの・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・くそっくり継承した日本人が、もしも日本の自然の特異性を深く認識し自覚した上でこの利器を適当に利用することを学び、そうしてたださえ豊富な天恵をいっそう有利に享有すると同時にわが国に特異な天変地異の災禍を軽減し回避するように努力すれば、おそらく・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ただ自分は今回の惨禍からわれわれが何事を学ぶべきかについていくらかでも考察し、そうして将来の禍根をいくらかでも軽減するための参考資料にしたいと思うのである。 あんなにも痛ましくたくさんの死者を出したのは一つには市街が狭い地峡の上にあって・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・しかし、そういう妻及び母としての女の負担は、現代に生きる自分たちの生涯を貫いての献身と努力とで将来社会的に軽減され得るものである。決して一人の機敏な精力的な女がアナーキイに感情の二つの極から極へとのびうつる輾転反側では解決しない。アグネスが・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・市太夫は和尚の旅館に往って一部始終を話して、権兵衛に対する上の処置を軽減してもらうように頼んだ。和尚はつくづく聞いて言った。承れば御一家のお成行き気の毒千万である。しかし上の御政道に対してかれこれ言うことは出来ない。ただ権兵衛殿に死を賜わる・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・相手が死なずに済んだなら、伊織の罪が軽減せられるだろうと思ったからである。 伊織は刀を柳原にわたして、しおしおと座に返った。そして黙って俯向いた。 柳原は伊織の向いにすわって云った。「今晩の事は己を始、一同が見ていた。いかにも勘弁出・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・特に政道に私なく、租税を軽減したということが、民衆の人気を得たゆえんであろう。その具体的な現われは、小田原の城下町の繁盛であった。それは京都の盛り場よりも繁華であったといわれているが、戦乱つづきの当時の状況を考えると、実際にそうであったかも・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫