・・・ そこで私生児志願者が続々と輩出しそうな今後の形勢に鑑みて、僕のようにとてもろくな私生児にはなれそうもないものは、まず観念の眼を閉じて、私の属するブルジョアの人々にもいいかげん観念の眼を閉じたらどうだと訴えようというのだ。絶望の宣言と堺・・・ 有島武郎 「片信」
・・・シカシ世間が早稲田を認めるのは、政治科及び法律科が沢山の新聞記者や代議士や実業家を輩出したにも関らず、政治科でも法律科でもなくて文学科である。何といっても日本の最高学府たる帝国大学に対しては民間私学は顔色なき中に優に大学と拮抗して覇を立つる・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・自から不自由の中に軌範の立ち籠って、政治の前衛をもって任ずるものは、自から異いますが、なるべく、多くの異彩ある作家が輩出して、都会を、農村をいろ/\の眼で見、描写しなければならぬと思います。 作家は、何ものにも囚われてはなりません。もし・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・ 街頭狗肉を売るところの知的商人、いつわりの説教師たちを輩出せしめる現代ジャーナリズムに毒されたる読書青年が、かような敬虔な期待を持つことができないのは同情に値する。しかしながらジャーナリズムはまた需要にこたえるものでもある。読書子の書・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ モスコフスキーは四十年前の婦人と今の婦人との著しい相違を考えると、知識の普及に従って追々は婦人の天才も輩出するようになりはしないか、と云うと、「貴方は予言が御好きのようだが、しかしその期待は少し根拠が薄弱だと思う。単に素養が増し智・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ こんな不満をいだいていたのであったが、近ごろは立派な有益な批評を書いて見せる批評家が輩出したようである。 以前は何か一つよい映画が出ると、その映画の批評については自分の見解だけが正しくて他の人の批評は皆間違っているかのようにたいそ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・レネサンスはすなわち偉大な旋毛曲りの輩出した時代である。ガリレーはその執拗な旋毛曲りのために縄目の苦しみを受けなければならなかった。ニュートンがデカルト派の形而上学的宇宙観から割り出した物理学を離れて Hypotheses non fing・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・現在の映画ファンの中の堅実な分子の中から総理大臣文部大臣以下各局長が輩出する時代が来て始めて私の夢は実現されるかもしれない。しかしそういう日の来ないうちに不良映画の不良教育を受けた本当の不良が天下を溺らすようにならないとは限らない。そうなら・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・唯一の奨励法は、日本にアインシュタインや、ボーアのような学者を輩出させることである。もし、どうかしてそれが出来たら、いかに妨害しようと骨折ってももう駄目である。日本の科学は、ひとりで勃興するだろう。百の騒がしい宣伝よりは、一の黙った実例が必・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
・・・ わたくしは西洋種の草花の流行に関して、それは自然主義文学の勃興、ついで婦人雑誌の流行、女優の輩出などと、ほぼ年代を同じくしていたように考えている。入谷の朝顔と団子坂の菊人形の衰微は硯友社文学とこれまたその運命を同じくしている。向島の百・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
出典:青空文庫