・・・ この年ヨーロッパへ麦を輸出することが出来なかった。それどころか、アメリカから買い込んだメリケン粉袋が埠頭に積んであるというデマさえ飛んだ。 これは、富農と買占人の奸策が成功した結果であった。 前の年から、ソヴェト政府が累進税で・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・益々労働条件は悪化し、戦争準備の金輸出再禁止で物価は三割がた上り、肥料の価さえ上った。賃銀は決してそれにつれて上らない。相場師と地主との庫で、米価はつり上げられるが、その米を辛苦して作った農村には何がのこされているか。朝鮮、台湾の殖民地で搾・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・そして、あっちで学者がほめた、というようなニュースとして、わたしたち日本の人民に逆輸出されてくる。これがおかしくないことだといえるだろうか。 万葉集の立派な写本は宮内府図書寮とかにあってお歌所の長である佐佐木信綱博士しか見られないものだ・・・ 宮本百合子 「国宝」
・・・うど私が見ていたとき、三人のアメリカ兵が会場に入ってきて、各室をスースー通りぬけながら最後の一室にやって来て、ああこれはいいと言って、一人混っていた女を先にたてて止まったのは、一枚の日本画の前でした。輸出芸術としての日本画の運命が何と鋭く閃・・・ 宮本百合子 「第一回日本アンデパンダン展批評」
・・・戦時中日本の政府は、侵略主義の本質を、見ための珍しい美しさや異国情緒でカムフラージュしようとして日本独特の風俗、行事のグラフを盛に輸出した。アジアにおけるきょうの日本の、まじめな人民の重大な苦悩や努力をそのかいどりの大きい裾でかくすように、・・・ 宮本百合子 「婦人デーとひな祭」
・・・まして、昨今の日本文化輸出熱は、その本質において、残念ながら多くは外国の人々の日本に関する不十分な先入感、お蝶さん的趣味に追随した程度のものであるから、日本文化と称するものの輸出熱が嵩じれば嵩じる程、一層現実日本の挙止が日常に与えつつある印・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
出典:青空文庫