・・・それは、当時の輿論が、どんなにふみにじられたものであったかを証明した。ジャーナリストが、さまざまの意味から、執筆して欲しい作家をA・B・C級にわけた。そのA級が大部分、役人にいわせれば禁止A級に入れられていた。役人が執筆させたいAの方には、・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・ 世間の輿論は、不幸な母親由紀子さんに同情を示し、結局、東京検事局は起訴猶予とした。そして、忙しくて乏しい歳末の喧騒にまぎれて、この事件は忘れられ、今日、私たちは、その事件のおこった当日と大して変りない暴力的交通状態の下に暮しているので・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・その記事の傍らに見るものは、連日連夜にわたる幣原、三土、楢橋の政権居据りのための右往左往と、それに対する現内閣退陣要求の輿論の刻々の高まり、さらにその国民の輿論に対して、楢橋書記翰長は「院外運動などで総辞職しない」「再解散させても思う通りに・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・乃木夫妻の死という行為に対して、初めは半信半疑であった作者が、世論の様々を耳にして、一つの情熱を身内に感じるようになって彌五右衛門が恩義によって死した心を描いたのは作者の精神の構造がそこに映っている意味からも面白いと思う。当時五十歳になって・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・「公」という字の感じかたにも、混雑があります。「輿論」というと相当の重みをもって通るのに、「公衆の意見」というと、何だか、その程度をうたがわれるような傾きがあります。別の「公」、官僚的な重苦しい「公」で、何となく抑えつける余地でもあるように・・・ 宮本百合子 「公のことと私のこと」
・・・ アメリカに、いくつかの世論調査機関がある。なかでも、ギャラップ博士の米国世論調査所は、日本でも或る種の権威をもって見られて来た。リーダーズ・ダイジェストをはじめ、日本人が日本で出す新聞や雑誌でも、アメリカの世論統計を引用する場合には、・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・社会科の時間に、子供たちの輿論調査が行われました。学校生活で一番希望されていることは、学用品・運動靴の配給や、給食をもっとほしい、ということです、子供達が住んでいる町にのぞんでいる第一のことは、遊ぶところをつくってほしい、というねがいです。・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・という怪奇なテーマをもつ記録文学がいくとおりか発表され、輿論の注目をひいたためであった。現地の軍当局の信じられないほどの無責任、病兵を餓死にゆだねて追放するおそろしい人命放棄についても記録されはじめた。大岡昇平氏の「俘虜記」そのほかの作品に・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・ところが行政機構の変革をチャンスとして政府は従来の用紙割当委員会さえも無視して、ただ一人の長官が決定権をもつ用紙割当事務庁というものを創設しようとしている。世論は当然反対し、ひとまず現在の内閣直属の用紙割当委員会の自主的権限を認めるところま・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・アカデミックな国文学者の著になる和泉式部の研究を土台として、一躍情熱の女詩人与謝野晶子への讚美となることの腑に落ちなさは一般文化人の胸にありつつ、何故輿論としてそれが発言されないのであろうか。文学に即して見れば、従来の国文学研究が実社会から・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫