・・・ 紋切型辞典に曰く、それは右往左往して疲れて、泣く事である。多忙のシノニム。 僕も、ちょっぴり泣いた事がある。「毎日、たいへんですね。」「ええ、疲れますわ。」 こう来なくちゃ嘘だ。「でも、いまは民主革命の絶好のチャンスで・・・ 太宰治 「渡り鳥」
・・・ 魚の辞典を引いてみると、ドンコはドンコ属という独立した一科になっている。辞書や伝承によって、鈍甲、胴甲、貪魚、鈍魚、などという字があててあるが、どれがほんとうなのか、私は知らない。しかし、鈍魚という字が面白く、また、ドンコの性格をよく・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・と辞典に短かく書かれてある。 なるほど、小さい絵はがきに見るこの源氏物語図屏風にしろ、魅力をもって先ず私たちをとらえるのは、大胆な裡にいかにもふっくり優しさのこもった動きで展開されている独特な構図の諧調である。 後年光琳の流れのなか・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・今日は私も、夜昼とり違えでないから気分もよく、かんしゃくも納っています 御注文の辞典類は木村の『和独大辞典』と白水社の『和仏辞典』とがあったので、書店から直接そちらへ送るように送金致しました。『朝日年鑑』と片山の『ドイツ文法辞典』と・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・岩波の『哲学辞典』を入れたいと思って居ます。いねちゃんが何かいい本を買ってくれるそうです。 私のかいた第一信は何日かかってお手に入りましたか。キカイ体操はそちらにありますか? レンブラントのエッチングの絵はがきは届きましたか。ロンドンで・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・という言葉は逆宣伝的な意味にでも通俗化され、新語辞典に出て来る文字となった。プロレタリア作家がそのような階級的な而も卑俗化された好奇心を伴って興味をひく可能のある題材を扱う場合、何よりなすべきことは、「プロヴォカートル」というものの憎むべき・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・ 一寸何をしていいかわからなかったので、百科大辞典を片っぱしから見て行く、私はよく、一寸手のあいた時に、字引や言海を見るのがすきだけれどもこれもくせの一つとしてあげるべき筈のものだ。 机が大変よごれたので水色のラシャ紙をきって用うと・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・ 一九五〇年〔渡辺泰輔宛〕 校正をおかえしいたします。 直したという以上にたくさんのところを削り、まことに御迷惑をかけました。 辞典類をかきなれないものですから、よみかえしてみると、これ一つで一つの文学史になってしまって・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・、更に昨今の流行とてらし合せて私達の感想を更に一層刺戟するのは、一九三〇年、プロレタリア芸術運動が高まって綜合雑誌『ナップ』が発刊されていた頃、山田清三郎・川口浩両氏によって編輯されたプロレタリア文芸辞典について、試みにハの部を索いて見ると・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫