・・・貧家に人となった尊徳は昼は農作の手伝いをしたり、夜は草鞋を造ったり、大人のように働きながら、健気にも独学をつづけて行ったらしい。これはあらゆる立志譚のように――と云うのはあらゆる通俗小説のように、感激を与え易い物語である。実際又十五歳に足ら・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・爾来諸君はこの農場を貫通する川の沿岸に堀立小屋を営み、あらゆる艱難と戦って、この土地を開拓し、ついに今日のような美しい農作地を見るに至りました。もとより開墾の初期に草分けとしてはいった数人の人は、今は一人も残ってはいませんが、その後毎年はい・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・もっとも、太郎から手紙で書いてよこしたように、これは特別な農作の場合で、毎年の収穫の例にはならない。二度目は、一反九畝九歩ほどの田をあてがった。そうそうは太郎一人の力にも及ぶまいから、このほうはあの子の村の友だちと二人の共同経営とした。地租・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・ 敢えて農作関係ばかりとは限らず、系統的な海洋観測が我邦のような海国にとっては軍事上からも水産事業のためにも非常に必要であるということは、実に分りきったことであるが、この分り切ったことがどういう訳か昔の日本の政府の大官には永い間どうして・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・ここに限らず女の農作をしているのを途中でいくらも見かけたが、派手なあざやかなしかし柔らかな着物の色がいずれも周囲の天然によく調和していた。そして遠くから見ると日に焼けた顔の色がどれもこれもまたなんとなく美しく輝いて見えた。このへんの風物に比・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ 天然の植物の多様性と相対して日本の農作物の多様性もまた少なくも自分の目で見た西欧諸国などとは比較にならないような気がするのである。もっともこれは人間の培養するものであるから、国民の常食が肉食と菜食のどちらに偏しているかということにもよ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・近年、西洋において学芸の進歩はことに迅速にして、物理の発明に富むのみならず、その発明したるものを、人事の実際に施して実益を取るの工風、日に新たにして、およそ工場または農作等に用うる機関の類はむろん、日常の手業と名づくべき灌水・割烹・煎茶・点・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・その細目にいたりては、一年農作の飢饉にあえば、これを救うの術を施し、一時、商況の不景気を見れば、その回復の法をはかり、敵国外患の警を聞けばただちに兵を足し、事、平和に帰すれば、また財政を脩むる等、左顧右視、臨機応変、一日片時も怠慢に附すべか・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・公園の樹の梢へつるす鳥の巣箱を小学校の子供は手工でこしらえる仕度をし、中央児童図書館では、一つの本棚が五ヵ年計画、集団農場、国営農場、その他一般農作と春の動植物についての本でおきかえられた。 ――これが我々に一番骨の折れる、大切な仕事な・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・西国の農民は富んで良い結果をあげて居る。農作に気候が適して居るので、農事に興味があって、自分が農民である事に、満足して、自分の土地以外に移って新らしい職業を得様などとはあんまり思って居ないらしい。東北は気候が悪い。農作の結果があまりよくない・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫