・・・はれぼったい瞼をした眼を細めて、こちらを見た。近視らしかった。 湯槽にタオルを浸けて、「えらい温るそうでんな」 馴々しく言った。「ええ、とても……」「……温るおまっか。さよか」 そう言いながら、男はどぶんと浸ったが、・・・ 織田作之助 「秋深き」
三年生になった途端に、道子は近視になった。「明日から、眼鏡を掛けなさい。うっちゃって置くと、だんだんきつくなりますよ」 体格検査の時間にそう言われた時、道子はぽうっと赧くなった。なんだか胸がどきどきして、急になよな・・・ 織田作之助 「眼鏡」
・・・彼の眼は牢獄の壁で近視になっていた。彼が、そのまま、天国のように眺める、山や海の上の生活にも、絶えざる闘争があり、絶えざる拷問があったが、彼はそれを見ることが出来なかった。 彼は彼一流の方法で、やっつけるだけであった。 夜の二時・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・緑郎も近視。全くこれではベルリンの小学生ではないが、支那人と日本人の違いはどこで判るか? ハイ日本人というものは眼鏡と写真機をもっています、ですね。 四日。火曜日、夜中の二時。 早寝をしているはずなのに、こんな時間に手紙を書いたので・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫