・・・旧労農党時代からだ。近隣の三部落も全農支部を組織して勇敢に闘争している。中でもこの部落は四・一六と二・一六とに犠牲者を出した。組合員は地主との闘争の焦点をハッキリ土地問題において勇敢にやっているのだ。部落の小作料はもう五年間も未納だ。 ・・・ 宮本百合子 「飛行機の下の村」
・・・かれはだれもかれを信ずるものがないのに失望してますます怒り、憤り、上気あがって、そしてこの一条を絶えず人に語った。 日が暮れかかった。帰路につくべき時になった。かれは近隣のもの三人と同伴して、道すがら糸くずを拾った場所を示した。そして途・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・ かねて近隣のものには沙汰があった。たとい当番たりとも在宿して火の用心を怠らぬようにいたせというのが一つ。討手でないのに、阿部が屋敷に入り込んで手出しをすることは厳禁であるが、落人は勝手に討ち取れというのが二つであった。 阿部一族は・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・えども、先主人松向寺殿御逝去遊ばされて後、肥後国八代の城下を引払いたる興津の一家は、同国隈本の城下に在住候えば、この遺書御目に触れ候わば、はなはだ慮外の至に候えども、幸便を以て同家へ御送届下されたく、近隣の方々へ頼入り候。某年来桑門同様の渡・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・先日わたくしは第一高等学校の北裏を歩いて、ふと樒屋の店の鎖されているのに気が付いたので、近隣の古本屋をおとずれて、翁媼の消息を聞いた。翁は四月頃に先ず死し、まだ百箇日の過ぎぬ間に、媼も踵いで死したそうである。わたくしは多少心を動さざることを・・・ 森鴎外 「細木香以」
出典:青空文庫