・・・ただし正確にいうと、私の徴集した小作料のうち過剰の分をも諸君に返済せねば無償ということができぬのですが、それはこの際勘弁していただくことにしたいと思います。 なおこの土地に住んでいる人の中にも、永く住んでいる人、きわめて短い人、勤勉であ・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・やっと三十間堀の野口という旧友の倅が、返済の道さえ立てば貸してやろうという事になり、きょう四時から五時までの間に先方で会うことになっているのです。まアザッとこんな苦しいわけで……けれどつかい込みの一件は、ごく内密にお願いします」と言って立ち・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・ うっかりしている間に学年試験が目の前に来ていたり、借金の返済期限がさし迫っていたりする。 眠っているような植物の細胞の内部に、ひそかにしかし確実に進行している春の準備を考えるとなんだか恐ろしいような気もする。 ・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・一家の経済は挙げて夫の自由自在に任せて妻は何事をも知らず、唯夫より授けられたる金を請取り之を日々の用度に費すのみにして、其金は自家の金か、借用したる金か、借用ならば如何ようにして誰れに借りたるや、返済の法は如何ようにするなど、其辺は一切夢中・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・それじゃあすまないから、今まで貸してやっていた金を、暮まで待つから全部返済しろと云うのである。 食うや食わずで、たださえ生きるか死ぬかの今、無断で一割の利まで加えた百円以上のものを、どうして返せるだろう。 金で返せない? それなら仕・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・一部をやっと返済したかと思うと、一方では負債の増大するようなことばかりが起った。自身、いつ返せるか当のない借金の山を負いつつ、ヴェルデやサンドーの借金の証人に立ったり、いかにも彼らしく、まだ書いてもない小説からの収入までを算用して遣いすぎを・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫