・・・――私のすることを見もききもしないで下さいね 彼女は白い股を開いて旺盛に水の迸る音をさせた。音がやむと同時にすっくり白い牝馬のように彼女は立ち上った。―― 十六日 今度の共産党事件のリーダーであった三人の若い主義者の・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・母の怒りがあまりつよいから、母とおじとをとりまいて息をこらして見物している子供の心には母の怒のはげしさに焼かれ清潔にされたように、おじさんの云った変なことより、母の迸る憤りがやきつけられるのだった。 富樫という書生もいた。書生といっ・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・もっと突込んで、痛烈に、愛の無い冷酷な社会的偽善としての結婚の形態の内幕と、無方向に迸る激しい愛の渇望の悲劇を描いたものであった。トルストイが彼の貴族地主としての生活環境の中で、結婚と家庭生活の実体を厳しく省察したとき、人道主義的な立場から・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・ 小説を書き、或は詩を書き、評論を書くにさえ、何等かの意味でこの人生を愛す心持、書かんとする対象に対する愛、何か迸る熱いもの、それなしに書ける作家というものは凡そ存在しないであろう。作家の感受性は謂わば最も人情の機微にまで立ち入ったもの・・・ 宮本百合子 「パァル・バックの作風その他」
・・・そんなに憤慨して熱血迸るというところがある。それだのに小説をお読みになれば分るように、「たけくらべ」「にごりえ」のようなものに女の憤慨を漏していますけれども、一葉はその時代の婦人の文学というものの考え方、いろいろなものに支配されて自分の憤慨・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・孤児院の仲間の女の子の性格、マリイ・エエメ教姉のかくされた激しい情緒が迸る姿、院長の悪意。実によく短いはっきりした筆で描写され、とくにマリイがヴィルヴィエイユの農園の羊番娘としての生活の姿は、四季の自然のうつりかわりと労働の結びつきの中に、・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
出典:青空文庫