・・・そして運動のための散歩の途中で、或る日偶然、私の風変りな旅行癖を満足させ得る、一つの新しい方法を発見した。私は医師の指定してくれた注意によって、毎日家から四、五十町の附近を散歩していた。その日もやはり何時も通りに、ふだんの散歩区域を歩いてい・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・これじゃ未だ未だ途中だ。何にしても、文学を尊ぶ気風を一旦壊して見るんだね。すると其敗滅の上に築かれて来る文学に対する態度は「文学も悪くはないな!」ぐらいな処になる。心持ちは第一義に居ても、人間の行為は第二義になって現われるんだから、ま、文学・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・その途中で大曲で一泊して六郷を通り過ぎた時に、道の左傍に平和街道へ出る近道が出来たという事が棒杭に書てあった。近道が出来たのならば横手へ廻る必要もないから、この近道を行って見ようと思うて、左へ這入て行ったところが、昔からの街道でないのだから・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・私は御明神へ行く途中もう一ぺんそこへ寄ったのでした。 丘はすっかり緑でほたるかずらの花が子供の青い瞳のよう、小岩井の野原には牧草や燕麦がきんきん光っておりました。風はもう南から吹いていました。 春の二つのうずのしゅげの花はすっかりふ・・・ 宮沢賢治 「おきなぐさ」
・・・革命を裏切らず、卑怯者にならずに自分を押しすすめてゆく途中で、どうせすてた体だ。もはや彼女にとって革命以外に大切にするものは何もないのだ。貞操ばかりをこわれ物のように気にかけていたら、それでどうなるというのだ」と、可憐にも当時の不十分に心の・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・そしてこの一条を絶えず人に語った。 日が暮れかかった。帰路につくべき時になった。かれは近隣のもの三人と同伴して、道すがら糸くずを拾った場所を示した。そして途中ただその不意の災難を語りつづけた。 その晩はブレオーテの村を駆けまわって、・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・そしてその経過を見に、度々瓶有村の農家へ、炎天を侵して出掛けた。途中でひどい夕立に逢って困った事もある。 病人は恐ろしい大量の Chloral を飲んで平気でいて、とうとう全快してしまった。 生理的腫瘍。秋の末で、南向きの広間の前の・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
これは小さい子供を持った寡婦がその子供を寐入らせたり、また老いて疲れた親を持った孝行者がその親を寝入らせたりするのにちょうどよい話である。途中でやめずにゆっくり話さなくてはいけない。初めは本当の事のように活溌な調子で話すが・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・研究所へ着くなり栖方は新しい戦闘機の試験飛行に乗せられ、急直下するその途中で、機の性能計算を命ぜられたことがあった。すると、急にそのとき腹痛が起り、どうしても今日だけは赦して貰いたいと栖方は歎願した。軍では時日を変更することは出来ない。そこ・・・ 横光利一 「微笑」
保険会社の役人テオドル・フィンクは汽車でウィインからリヴィエラへ立った。途中で旅行案内を調べて見ると、ヴェロナへ夜中に着いて、接続汽車を二時間待たなくてはならないということが分かった。一体気分が好くないのだから、こんなことを見付けて見・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
出典:青空文庫