・・・それ故、長逗留をし、縁故を辿って気永く研究しようとする篤志家は兎も角、私のように貧しい予備知識と短い時間しか持ち合わせず、而も、過去の長崎が経験した文化史的活動の実証を一瞥したい者は、永山氏を訪問するらしい。その数は一年を通算すれば決して尠・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ドイツのカイゼルスウェールト温泉へ母と姉とで逗留したとき、フロレンスは二人の貴婦人たちが入湯や社交に日を消している間をぬけ出して、同地の看護婦養成所に三ヵ月以上も滞在した。「これこそ彼女の生涯を支配した重大事件であった」と、興味ある伝記作者・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・木更津に友達が逗留していた。そこへ行く気になったのであった。両国を六時五十分に出る汽車がある。 バスケット一つ下げ、藍子は飯田橋まで出てタクシーに乗った。「間に合うだろうか」「さあ……」 自動車が止る。藍子が三和土に足を下す・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・ 阿部一族は評議の末、このたび先代一週忌の法会のために下向して、まだ逗留している天祐和尚にすがることにした。市太夫は和尚の旅館に往って一部始終を話して、権兵衛に対する上の処置を軽減してもらうように頼んだ。和尚はつくづく聞いて言った。承れ・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・しかもその朝東京から出掛けて来た自分たちと軽井沢に逗留していられる寺田さんたちとが、こうして同じ電車に落ち合ったのである。 が、寺田さんと話しているうちにこのような偶然よりも一層強く自分を驚かせるものがあった。何か植物のことをたずねた時・・・ 和辻哲郎 「寺田さんに最後に逢った時」
出典:青空文庫