・・・従って、この特徴と重写の技巧とを併用すれば、一粒の芥子種の中に須弥山を収めることなどは造作もないことである。巨人の掌上でもだえる佳姫や、徳利から出て来る仙人の映画などはかくして得られるのである。このようにカメラの距離の調節によって尺度の調節・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・何の雑作もなくただ現今の日本の開化と云う、こういう簡単なものです。その開化をどうするのだと聞かれれば、実は私の手際ではどうもしようがないので、私はただ開化の説明をして後はあなた方の御高見に御任せするつもりであります。では開化を説明して何にな・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・と津田君は下宿人だけあって無雑作な事を言う。「僕は廃してもいいが婆さんが承知しないから困る。そんな事は一々聞かないでもいいから好加減にしてくれと云うと、どう致しまして、奥様の入らっしゃらない御家で、御台所を預かっております以上は一銭一厘・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・ 赤ん坊の手を捻るのは、造作もねえこった。お前は一人前の大人だ。な、おまけに高利で貸した血の出るような金で、食い肥った立派な人だ。こんな赤ん坊を引裂こうが、ひねりつぶそうが、叩き殺そうが、そんなこたあ、お前には造作なくできるこった。お前・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・ そして造作もなく、彼の、南京虫だらけの巣へ投り込んだ。 一々そんなことに構っちゃいられないんだ。それに、病人は、水の中から摘み出されたゴム鞠のように、口と尻とから、夥しく、出した。それは、デッキへ洩れると、直ぐにカラカラに、出来の・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・「そいつはな、雑作ない。さぎというものは、みんな天の川の砂が凝って、ぼおっとできるもんですからね、そして始終川へ帰りますからね、川原で待っていて、鷺がみんな、脚をこういう風にして下りてくるとこを、そいつが地べたへつくかつかないうちに、ぴ・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・それにあすこまでは牧場の道も立派にあるから、材料を運ぶことも造作ない。ぼくは工作隊を申請しよう。」 老技師は忙しく局へ発信をはじめました。その時足の下では、つぶやくようなかすかな音がして、観測小屋はしばらくぎしぎしきしみました。老技師は・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ 確に、この大仕事はそう雑作なく行きはしないのだ。 だが、果して、世界革命はブルガーコフのように諷刺しやゆしてしまうだけのものだろうか? 党、それを支持するプロレタリアートの一面の誤謬は指摘され、笑われている。プロレタリア的な積・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・狂人の寝言のように無雑作にそう云うのも、よく聞きわけて見ると、恐るべき光線の秘密を呟いているのだった。「僕は動物の心臓というものに興味が出て来ましたよ。どうも、いろいろ心臓に種類があるような気がして来て、これを皆験べたら面白いだろうなア・・・ 横光利一 「微笑」
・・・生まれ変わる代わりに、竹べらで自分の顔の造作を造り変えようとする。あまりにたわいがない。 彼らはまず、自分たちのとは違った自然の見方をほんとうに心底から理解してみなくてはいけない。私は彼らが性慾を重んじるからいけないというのではない。彼・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫