・・・誰だって同じ旅行が出来たら、あの男よりは有利にそれをし遂げるだろうに。 チルナウエルの旅程が遠くなればなる程、跡に残っている連中の悪口はひどくなる。もう幾月か立ったので、なんに附けても悪く言う。葉書が来ない。そりゃ高慢になった。来た。そ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ この仕事を仕遂げるために必要であった彼の徹底的な自信はあらゆる困難を凌駕させたように見える。これも一つのえらさである。あらゆる直接経験から来る常識の幻影に惑わされずに純理の道筋を踏んだのは、数学という器械の御蔭であるとしても、全く抽象・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ こういう事を完全に仕遂げる事はなかなか容易な事ではないが、そういう方向への第一歩として、私は試みに次のような事を考えてみた。 先ず従来の例にならって母音をイエアオウの順に並べる。そしてイからウに至る間に唇は順に前方に突き出て行くも・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・しかしまた同じ理由によって文字では到底勤まらない役目を映画によって仕遂げることが出来るのである。云うまでもなく、朝顔を見たことのないエスキモー土人に朝顔を説明するに百万言を費やすよりも写真か映画で一分間を費やした方が早分りである。一と口に云・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・しかしまた一方で西鶴型の優れた科学者も時に出現し、そうしてそういう学者の中に往々劃期的な大発見、破天荒の大理論を仕遂げる人が生まれるようである。科学全体としての飛躍的な進歩はただ後者によって成さるると云っても過言ではない。 西鶴を生んだ・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・頭が良くなくても根気さえあれば人が一日に一時間ずつ費やして会得しまた仕遂げる事を、二時間三時間ずつかければ会得し遂行されよう。 科学教育の根本は知識を授けるよりもむしろそういう科学魂の鼓吹にあると思われる。しかしこれを鼓吹するには何より・・・ 寺田寅彦 「雑感」
・・・怒るという動作をしなければ怒りの感情は発育を遂げることが出来ずに消えてしまうそうである。この理窟を素人流に応用すると、歯を噛み合わせる動作によって緊張努力の気持が幾分かは助長されるという効果があるのかもしれない。 顎の張った人は意志が強・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・教育者の手首が堅くてはせっかくの上等な子供の能力の弦線も充分な自己振動を遂げることができなくて、結局生涯本音を出さずにおしまいになるであろう。 政治の事は自分にはわからない。しかし歴史を読んでみると、為政者が君国のために、蒼生のためにそ・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・ オラーフ・トリーグヴェスソンが武運つたなく最後を遂げる船戦の条は、なんとなく屋島や壇の浦の戦に似通っていた。王の御座船「長蛇」のまわりには敵の小船が蝗のごとく群がって、投げ槍や矢が飛びちがい、青い刃がひらめいた。盾に鳴る鋼の音は叫喊の・・・ 寺田寅彦 「春寒」
・・・また、物理学の系統は実験上の新発見と新概念の構成とによって本質的の進歩を遂げるのであるが、その発見や構成の時間的関係は必ずしも必然的唯一のものが実際に存在したとは考えられない。たとえばハミルトンがもっと長生きをしたとか、アインシュタインが病・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
出典:青空文庫