・・・そうなってもちょうをきれいだなどというのは、ただふらふらしている遊び人だけで百姓や、また草木をかわいがる人間は、そうはいわない。一滴からだについたら、死んでしまうような殺虫剤で、朝から晩まで、ちょうの後を追いまわしたものだ。おまえのお母さん・・・ 小川未明 「冬のちょう」
・・・実に遊び人が多いのです。佐吉さんの家の裏に、時々糶市が立ちますが、私もいちど見に行って、つい目をそむけてしまいました。何でも彼でも売っちゃうのです。乗って来た自転車を、其のまま売り払うのは、まだよい方で、おじいさんが懐からハアモニカを取り出・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・くりくり坊主の桃川如燕が張り扇で元亀天正の武将の勇姿をたたき出している間に、手ぬぐい浴衣に三尺帯の遊び人が肱枕で寝そべって、小さな桶形の容器の中から鮓をつまんでいたりした。西裏通りへんの別の寄席へも行った。伊藤痴遊であったかと思う、若いのに・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・何をしていたものの成れの果やら、知ろうとする人も、聞こうとする人も無論なかったが、さして品のわるい顔立ではなかったので、ごろつきでも遊び人でもなく、案外堅気の商人であったのかも知れない。 オペラ館の風呂場は楽屋口のすぐ側にあった。楽屋口・・・ 永井荷風 「草紅葉」
出典:青空文庫