・・・それが年を取るうちにいつの間にか自分の季節的情感がまるで反対になって、このごろでは初夏の若葉時が年中でいちばん気持のいい、勉強にも遊楽にも快適な季節になって来たようである。 この著しい「転向」の原因は主に生理的なものらしい。試みに自分の・・・ 寺田寅彦 「五月の唯物観」
・・・ 日本人の遊楽の中でもいわゆる花見遊山はある意味では庭園の拡張である。自然を庭に取り入れる彼らはまた庭を山野に取り広げるのである。 月見をする。星祭りをする。これも、少し無理な言い方をすれば庭園の自然を宇宙空際にまで拡張せんとするの・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・荒廃のいとも気高き眺めの中には、美しき昔のさまの影もあはれや、遊楽後を絶ちて唯だ変りなきその池水のみ、昔の秩序と静寧の中に息ひたるこそ嬉しけれ。という句がある。 自分が頻に芝山内の霊廟を崇拝して止まないのも全・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・此一面より見れば愚なるが如くなれども、方向を転じて日常居家の区域に入り、婦人の専ら任ずる所に就て濃に之を視察すれば、衣服飲食の事を始めとして、婢僕の取扱い、音信贈答の注意、来客の接待饗応、四時遊楽の趣向、尚お進んで子女の養育、病人の看護等、・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・元来を言えば婦人の遊楽決して咎む可らず。鬱散養生とあれば花見も宜し湯治も賛成なり、或は集会宴席の附合も自から利益なれども、其外出するや子供を家に残して夫婦の留守中、下女下男の預りにて、初生児は無理に牛乳に養わるゝと言う。恰も雇人に任せたる蚕・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・この夏はじめての遊楽でした。又こまかくは手紙で。 八月三十日午後 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より〕 第九信。八月二十七日の夜から。 きょうは体によくない天候でしたが御気分はいかがだったでしょう。皮膚がひやっとしてい・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 此のプロスペクト山は、近傍で一番高い山であるのみならず、五十年程前に、何処かの金持が麓から電車を通して、頂上に壮大な遊楽場を設けたので有名になって居ります。元はきっと、如何那にか熾な場所だったのでございましょう。けれども今はもうすっか・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・る読売雑誌には、かっちゃんと呼んで断髪兵児帯姿の良子嬢をはったあんちゃんの一人が、いかにも町の若者らしい情感をもってかっちゃんがそこいらの女給などは夢にも知らぬカメラの話、ヨットの話、華美な夏の鎌倉の遊楽生活を話したりするをきいて、映画的憧・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・ 世間では親も娘もそれを唯一の目的として心を砕いている婿選びに興味をもつ素振りもないし、社交界に出たばかりの娘たちを有頂天にさせる華美な遊楽や交際も、フロレンスはただ生れ合わせた境遇の義務の一つとして、それに従っているというだけのように・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・源氏物語を読めば、当時の宮廷内の無為と遊楽と権力争いの事情が実に細かく色彩ゆたかに描写されている。そして、紫式部という官女名をもった一人の優れた真面目な心の婦人作家は、当時の社会に生きる女の一生が、どんなに頼りない気の毒なものであるかという・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫