・・・護憲運動のあった時などは善良なる東京市民のために袋叩きにされているのですよ。ただ山の手の巡回中、稀にピアノの音でもすると、その家の外に佇んだまま、はかない幸福を夢みているのですよ。 主筆 それじゃ折角の小説は…… 保吉 まあ、お聞き・・・ 芥川竜之介 「或恋愛小説」
・・・とが融合した、そこから生ずる現象――その現象はいつでも人間生活の統一を最も純粋な形に持ち来たすものであるが――として最近に日本において、最も注意せらるべきものは、社会問題の、問題としてまた解決としての運動が、いわゆる学者もしくは思想家の手を・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・ 暗黒の裏に、自分の体の不工合を感じて、顫えながら、眩暈を覚えながら、フレンチはある運動、ある微かな響、かすめて物を言う人々の声を聞いた。そしてその後は寂寞としている。 気の狂うような驚怖と、あらあらしい好奇心とに促されて、フレンチ・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・すでに自然主義運動の先蹤として一部の間に認められているごとく、樗牛の個人主義がすなわちその第一声であった。 樗牛の個人主義の破滅の原因は、かの思想それ自身の中にあったことはいうまでもない。すなわち彼には、人間の偉大に関する伝習的迷信がき・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・――この硝子窓の並びの、運動場のやっぱり窓際に席があって、……もっとも二人並んだ内側の方だが。さっぱり気が着かずにいた。……成程、その席が一ツ穴になっている。 また、箸の倒れた事でも、沸返って騒立つ連中が、一人それまで居なかったのを、誰・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・ 不安――恐怖――その堪えがたい懊悩の苦しみを、この際幾分か紛らかそうには、体躯を運動する外はない。自分は横川天神川の増水如何を見て来ようとわれ知らず身を起した。出掛けしなに妻や子供たちにも、いざという時の準備を命じた。それも準備の必要・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・何んでも早く青木から身受けの金を出させようと運動しているらしく、先刻もまた青木の言いなり放題になって、その代りに何かの手筈を定めて来たものと見えた。おッ母さんから一筆青木に当てた依頼状さえあれば、あすにも楽な身になれるというので、僕は思いも・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・という短文を書いて、その頃在籍していた国民新聞社へ宛ててポストへ入れに運動かたがた自分で持って出掛けた。で、直ぐ近所のポストへ投り込んでからソコラを散歩してかれこれ三十分ばかりして帰ると、机の上に「森林太郎」という名刺があった。ハッと思って・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・なるほどここにも学校が建った、ここにも教会が建った、ここにも青年会館が建った、ドウして建ったろうといってだんだん読んでみますと、この人はアメリカへ行って金をもらってきて建てた、あるいはこの人はこういう運動をして建てたということがある。そこで・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・ まったく、まりは、いまは雲の上にいて安全でありましたけれど、毎日、毎日、仕事もなく、運動もせず、単調に倦いていました。そして、だんだん地の上が恋しくなりはじめたのでありました。 まりは、地上に帰ろうかと考えました。そのとき、風は、・・・ 小川未明 「あるまりの一生」
出典:青空文庫